こんにちは。
東京日本橋エムアンドアソシエイツ矯正歯科の増岡です。

マウスピース矯正は、目立ちにくく取り外しができるなどの利点があり、身近な矯正治療として普及しています。一方で当院には、他院でマウスピース矯正を受けたものの「思った通りにいかない」と感じ、再治療(セカンドオピニオン含む)を希望して来院される方もいらっしゃいます。

本記事では、当院を受診した患者様の声をもとに、マウスピース矯正で起きやすいトラブルを、以下の4点に絞って、原因と対策を整理します。

  1. 歯並びが治らない
  2. 治療期間が延びる
  3. 奥歯が噛めない
  4. 歯茎が下がってしまう

※本記事では、マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名:インビザライン、完成物薬機法対象外)を含む一般的な内容として解説します。

【目次】
1.そもそも、マウスピース矯正は「シミュレーション通り」になりにくいことがある
2.よくある矯正失敗例の原因と対策
 2-1 ① 歯並びが治らない
 2-2 ② 治療期間が延びる
 2-3 ③ 奥歯が噛めない
 2-4 ④ 歯茎が下がってしまう(歯肉退縮)
3.「失敗」にしないためのポイント
4.「矯正の失敗例」でよくある質問(Q&A)

そもそも、マウスピース矯正は「シミュレーション通り」になりにくいことがある

マウスピース矯正では、治療開始前にクリンチェック(治療シミュレーション)を作成し、「どの歯が、いつ、どれだけ動くか」を計画します。
しかし、シミュレーションは“予測”であり、実際の歯の動きは完全には一致しません。


上の図をご覧ください。緑の線(Planned Tooth Movement:計画)は、週数に合わせて一直線にゴールへ向かっています。一方で、青の線(Actual Tooth Movement:実際)は同じ期間でも進み方が緩やかで、8週目の時点で計画が100%に到達しているのに対し、実際は約55〜60%程度に留まっています。
ここで重要なのは、「差が出た=失敗」ではないということです。
マウスピースは歯を“押して誘導する”装置ですが、歯の移動は次のような要素の影響を受けます。

  • 歯根の形、骨や歯周組織の状態などの個人差
  • 回転・挺出(歯を引っ張り上げる)など、ズレが出やすい動きが含まれる
  • 移動量が大きい計画ほど、途中で誤差が積み重なりやすい
  • マウスピースの適合(浮き)や、補助設計(アタッチメント、ゴム掛け、IPR等)の影響

つまり、治療は「最初の計画を守れば一直線に終わる」ものではなく、経過に合わせて調整しながら完成度を上げていく側面があります。
では実際に、マウスピース矯正ではどのようなトラブルが起こりやすく、患者さんが「失敗した」と感じてしまうのはどんな場面なのでしょうか。次章から、代表的な4つのケースについて、原因と対策を整理していきます。

関連記事:マウスピース矯正における クリンチェック の重要性

よくある矯正失敗例の原因と対策


① 歯並びが治らない

患者様のお悩み

  • 予定の時期になっても見た目が変わらない
  • マウスピースが浮く/合わない
  • 前歯は揃ってきたが、細部が整わない

主な原因

  • 計画と実際の歯の動きにズレが出ている
  • マウスピースが苦手な動き(回転・挺出など)が多い
  • ズレが出ているのに、再計画(リファイン)が遅れている
  • 設計(アタッチメント、IPR、ゴム掛け等)が症例に合っていない

対策

  • どの歯が追いついていないかを早期に特定し、原因別に手当てする
  • ズレが出たら放置せず、再スキャン→追加アライナー(リファイン)で計画を立て直す
  • マウスピース単独に固執せず、必要に応じて部分的なワイヤー併用なども選択肢に入れる

② 治療期間が延びる

患者様のお悩み

  • 当初の予定より終わらない
  • 追加アライナーが何度も発生している
  • 途中でゴールが見えなくなり不安になる

主な原因

  • 計画通りに動かず、作り直し(リファイン)が増えている
  • そもそもスペース不足など、計画の実現性が低い
  • 装着時間や装着の質(浮き)が影響している場合もある

対策

  • 期間延長を「気合い」や「根性」で埋めず、ズレの原因を臨床的に分析する
  • スペース不足が疑われる場合は、IPR/歯列の拡大/抜歯の要否を再評価する
  • 追加アライナーを作る場合も、「何を直す設計なのか」を明確にし、次に同じことが起きないように組み直す

③ 奥歯が噛めない

患者様のお悩み

  • 前歯は並んだのに、奥歯が当たらない
  • 噛みにくさ、食事のしづらさがある
  • 見た目は良いが、噛み合わせに違和感が残る

主な原因

  • 咬合(噛み合わせ)のゴール設計が弱いまま進んでいる
  • 途中のズレによって奥歯の位置関係が崩れたままになっている
  • ゴム掛け等の咬合コントロールが不足している

対策

  • ゴールを「見た目」だけでなく、奥歯の噛み合わせまで含めて設計する
  • 奥歯が噛まない兆候が出たら早めに再計画(リファイン)し、必要なら手段変更も検討する
  • 仕上げ段階の咬合調整(微調整)を省略せず、噛める状態で完了させる

④ 歯茎が下がってしまう(歯肉退縮)

患者様のお悩み

  • 矯正後に歯が長く見える
  • 根元がしみる/見た目が気になる
  • 「矯正で歯茎が下がった気がする」と不安になる

主な原因

  • 歯周組織に負担がかかる方向へ歯を動かしている可能性
  • もともと歯肉や歯槽骨が薄い体質要因
  • 歯周炎、強いブラッシング圧などの負担が重なっている

対策

  • 治療前に歯周リスクを評価し、無理な拡大・傾斜を避けた計画にする
  • 歯周病管理(炎症コントロール、定期クリーニング)を並行して行う
  • 退縮が疑われたら移動方針を修正し、必要に応じて歯周の専門的対応も含めて検討する

「失敗」にしないためのポイント


マウスピース矯正では、途中でズレが出ること自体は起こり得ます。
重要なのは、ズレが出たときに

  • なぜズレたのかを説明できる
  • ゴールまでの修正ルートを提示できる
  • 必要ならワイヤー矯正へ切り替えて完了に導ける

という体制があることです。
「マウスピースでは治せない」と言われた場合でも、治療手段を変更・併用することでゴールを目指せるケースもあります。逆に、ズレを放置して時間が経つほど、選択肢が限られていくことがあります。
マウスピース矯正は簡単だと思われがちですが、治療を完了するためにはやはり矯正歯科の専門知識に加えてマウスピース矯正の知識や経験が不可欠です。

みなさまのクリニック選びのご参考になれば幸いです。

「矯正の失敗例」でよくある質問(Q&A)

Q1. 「歯並びが治らない」と感じたら、まず何を確認すべきですか?
A. まずは「マウスピースが浮いていないか」「どの歯が計画より遅れているか」を確認し、ズレの原因に応じて設計変更や再計画(リファイン)の説明があるかが重要です。

Q2. 治療期間が延びるのは、装着時間が原因ですか?
A. 装着時間が影響するケースはありますが、それだけで決まるものではありません。ズレが出た際に原因分析と修正ができているかがポイントです。

Q3. 奥歯が噛めないまま終わることはありますか?
A. 仕上げ段階の咬合調整(微調整)を丁寧に行わないと、違和感が残ることがあります。奥歯の噛み合わせまでゴールに含めているか確認しましょう。

Q4. 歯茎が下がるのが心配です。矯正で必ず起きますか?
A. 必ず起きるわけではありません。ただし体質や歯周状態、移動方向によってリスクが上がることがあります。治療前のリスク評価と歯周管理が大切です。

Q5. 他院で「マウスピースでは無理」と言われました。もう手遅れですか?
A. 状態によりますが、手段を変える(ワイヤー併用・切り替えなど)ことでゴールを目指せるケースもあります。「なぜ難しいのか」「代替案は何か」を説明できる医院で相談することをおすすめします。


監修者:増岡尚哉

歯科医師・歯学博士(D.D.S. , Ph.D.)|マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)の講師として歯科医師向けに講義・講演活動をしています。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。

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