歯茎の腫れや痛み、出血、イジイジするような違和感が気になったことはありませんか?もしかすると、それは歯周病が原因かもしれません。歯周病は初期段階では大きな症状が出にくく、静かに進行していきます。放っておくと重症化することもある病気なので、歯周病対策では早めの治療や予防がとても大切です。

このコラムでは、「歯周病のリスク」や「進行段階」、「原因」についてわかりやすく解説します。

【目次】
1.歯周病は全身に影響することも!そのリスクとは
2.歯周病における深刻な症状とは?進行段階について解説
 2-1 【ステージ1】歯肉炎(手遅れ度合い:★☆☆☆☆)
 2-2 【ステージ2】軽度の歯周病(手遅れ度合い:★★☆☆☆)
 2-3 【ステージ3】中等度の歯周病(手遅れ度合い:★★★★☆)
 2-4 【ステージ4】重度の歯周病(手遅れ度合い:★★★★★)
3.歯周病に気づくためのセルフチェックリスト
4.歯周病の原因と進行するメカニズムについて
5.重度歯周病における5つの治療方法について解説
 5-1 歯周病で歯を失っても歯列矯正可能な方法もあります!

歯周病は全身に影響することも!そのリスクとは

歯周病の主な原因は、歯に付着するプラークです。
プラークの中には多くの細菌が存在し、その細菌が歯と歯茎の間の溝に留まることで、歯茎が腫れます。そうすると、歯周ポケットが形成され、その内部で細菌がさらに増殖しやすくなり、次第に歯を支えている骨が溶けていってしまいます。支えがなくなった歯はグラグラして、最終的には抜けてしまうこともあるのです。

「歯が抜けてしまうまでに症状が出るのだから、さすがに歯周病に気づくのでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、歯周病は「サイレントディジーズ(静かに進行する病気)」と呼ばれるほど自覚症状がなく進んでいく病気で、気づいた時には重症化していた、というケースも珍しくありません。

また、歯周病は、お口の中だけではなく全身にも影響します。
歯茎が腫れて炎症が強い状態が続いている場合は、細菌が活発になっています。そうすると、細菌の作り出す毒素が血液と混じり、そのまま循環し、心臓や肺、その他の臓器に運ばれて全身疾患を誘発する引き金となることもあります。


全身疾患 歯周病による影響
糖尿病 糖尿病の方は、歯周病に罹患しやすいです。歯周病を改善することで、糖尿病の数値が改善されたという報告もあるほど、歯周病と糖尿病は関連しています。また、血糖値を調整するホルモンであるインスリンの働きが、歯周病菌が作り出す炎症物質により低下し、血糖値が高くなることもあります。
誤嚥性肺炎 加齢とともにお口の筋肉や舌の筋肉が弱まってくると、食べ物や飲み物をうまく飲み込めないことがあります。食べ物や飲み物は、本来、食道を通って胃に送られます。しかし、うまく食道に送り込まれないと肺に入ってしまいます。そうして細菌も一緒に肺に入ることで感染がおこり、肺炎を起こすことがあります。
早期低体重児出産 血液中に侵入した歯周病細菌が胎盤に入り込み、胎児の成長の妨げになる可能性があります。
冠動脈心疾患 血液中に侵入した歯周病細菌は、血管の内部に付着して小さな塊になることがあります。塊ができることにより血管の厚みが増し、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化で血流が悪くなると、心臓や脳の負担に繋がります。また、心臓に細菌が付着することにより、心内膜炎を引き起こすこともあります。

歯周病は早めに気づいて治療や予防を行えば、進行を抑えることができます。まずは、歯科医院を受診し定期検診を受けていただくことがおすすめです。

歯周病における深刻な症状とは?進行段階について解説

歯周病の進行段階は、ステージ1〜ステージ4に分類されます。
ステージ1は「歯肉炎」、ステージ2は「軽度の歯周病」、ステージ3は「中等度の歯周病」、ステージ4は「重度の歯周病」です。ステージ4まで歯周病が進行すると、歯を残すことができず抜歯が必要になることが多いです。(ステージ3でも、他の歯へ炎症が拡がる場合は抜歯が必要になることもあります)

どのステージに分類されるかの診断基準は、以下の通りです。

  1. 歯茎が炎症を起こすことで形成される「歯周ポケット」の深さ
  2. 歯槽骨(歯を支えている骨)が歯根(歯の根っこ)に対して、どのくらい減っているか(歯周病が進行して内部に炎症が拡がると、歯槽骨の吸収が起こり歯槽骨が減ります)
  3. 歯周病により失われた歯の本数

それぞれのステージ毎の「症状」や「手遅れ度合い(5段階評価)」について解説します。

【ステージ1】歯肉炎(手遅れ度合い:★☆☆☆☆)

<症状>
歯茎の腫れや出血はあるが、歯槽骨の減少はほとんどみられません。正しくお口のケアを行なえば、元の健康な状態に改善できます。一度、歯茎の状態を歯科医院で診てもらいましょう。

  1. 歯周ポケットの深さ:4mm以内
  2. 歯槽骨の減少:歯根の長さに対して1/3未満に留まっている
  3. 歯周病により失われた歯の本数:0本

【ステージ2】軽度の歯周病(手遅れ度合い:★★☆☆☆)

<症状>
歯槽骨の減少がわずかに確認され、腫れや出血、歯磨きする時に痛みやイジイジするような違和感を覚えることがあります。歯科医院で適切な処置を受けることで重症化を防ぐことができます。

  1. 歯周ポケットの深さ:5mm以内
  2. 歯槽骨の減少:歯根の長さに対して1/3未満に留まっている
  3. 歯周病により失われた歯の本数:0本

【ステージ3】中等度の歯周病(手遅れ度合い:★★★★☆)

<症状>
はっきりと歯槽骨の減少が確認され、歯茎の腫れや出血、痛みを伴います。歯のグラつきを感じることもあります。早めに歯科医院での治療が必要です。

  1. 歯周ポケットの深さ:6mm以上
  2. 歯槽骨の減少:歯根の長さに対して約1/3以上確認できる
  3. 歯周病により失われた歯の本数:4本以内

【ステージ4】重度の歯周病(手遅れ度合い:★★★★★)

<症状>
歯槽骨が大きく減少しています。歯がグラつき、食事のしにくさを感じます。自然に歯が抜け落ちてしまうこともあります。他の歯へ炎症が広がっていることもあるため、できるだけ早めに歯科医院を受診しましょう。

  1. 歯周ポケットの深さ:7mm以上
  2. 歯槽骨の減少:歯根の長さに対して約1/3以上確認できる
  3. 歯周病により失われた歯の本数:5本以上

関連記事:歯とお口のことならなんでもわかるテーマパーク8020「歯周病」

歯周病に気づくためのセルフチェックリスト

歯周病は、重症化するまで大きな症状が出にくいです。そのため、歯や歯茎の違和感、歯磨き時に痛みなどがある場合は、歯科医院を受診しましょう。歯周病の早期発見に繋がります。

受診するかどうか悩まれる方は、まずは以下の項目をチェックしてみましょう。2項目以上当てはまるようであれば、歯科医院を受診するようにしてください。

<チェック項目>

  • 歯茎が腫れて出血がある
  • 歯茎が下がってきた
  • 歯茎の色がピンク色ではなく赤色あるいは紫色になっている
  • 歯が浮いた感じやイジイジする違和感がある
  • 口の臭いを強く感じるようになる
  • 歯と歯の間の隙間が目立ってきた
  • 冷たい食べ物や飲み物でしみる
  • 歯茎から黄白色をした膿が見られる
  • 歯茎にニキビのようなものができている
  • 歯の揺れを感じる

歯周病の原因と進行するメカニズムについて

正しく歯磨きができていないと、歯にプラークが付着して少しずつ蓄積します。
歯と歯茎の間には溝があり、その溝にプラークが蓄積することが、歯周病を引き起こす大きな引き金となります。

プラークは白~黄白色で、モコモコしたような見た目です。プラーク1mg中には1~2億程の細菌が存在しており、「細菌の塊」とも言われます。

歯と歯茎の間の溝で細菌が増殖すると、歯茎が炎症を起こし腫れることで「歯周ポケット」を形成し、出血も伴います。歯周ポケットがさらに深くなると、内部でプラークがどんどん蓄積し、細菌も進入しやすくなります。そうすると炎症が拡大し、さらには歯を支えている骨である「歯槽骨」が溶かされてしまいます。歯槽骨が溶かされると、歯を支えることができなくなるため、歯がグラグラと揺れ、最悪な状態になると歯が自然に抜け落ちてしまうこともあります。

歯に付着した歯垢は、歯磨きで落とすことができますが、歯周ポケットに入り込んだプラークは歯ブラシが届かず磨き取ることが難しいです。また、プラークは唾液や血液などと混ざることで時間の経過とともに歯石となって硬くなるため、セルフケアでは除去できません。このような状態になると、口内の環境はどんどん悪化し、歯周病が進行しやすくなります。

また、糖尿病などの全身疾患や喫煙などの生活習慣は、体の免疫機能が下がるため歯周病のリスクが高まると報告されています。

重度歯周病における5つの治療方法について解説

重度の歯周病の治療法は主に5つ挙げられます。それぞれの治療法について解説します。

▶FMD(フルマウスディスインフェクション)
お口の中に存在する歯周病菌をできる限り少なくし、治療後の再感染や歯周病の進行を防ぎます。治療方法としては、歯に付着するプラークや歯石を超音波スケーラーなどの器械で除去し、細菌の数を激減させます。その後、抗生剤を服用することで、体内に存在する一部の歯周病菌を除去します。

▶歯周組織再生療法
歯周病により失われた組織を再生させる治療方法です。歯茎を切開・剥離し、歯の根っこの面が見えるようにします。その根面に付着したプラークや歯石を、スケーラーなどを使用して除去し、なるべく綺麗な状態にします。その後、組織を再生する薬剤を塗布して歯茎を縫合し、経過をみながら組織再生を促します。

▶歯周外科手術
歯周病が進行すると、歯周ポケットが深くなり、その部分にプラークや歯石が蓄積しやすくなります。重症化している場合は、かなり深い部分まで入り込んでいるため、スケーラーで取り除くことが難しいです。このような状態では、歯茎の切開を行なって少しだけめくり、歯周ポケット内部にあるプラークや歯石を見える状態にして、綺麗に除去します。治療後は、歯茎を縫合して歯周組織が治癒するのを待ちます。

▶歯周補綴
歯周病が進行すると、歯を支えている骨(歯槽骨)が減り、歯茎が下がってきます。そうすると、歯の支えが減り、グラグラと揺れを感じることがあります。歯のグラつきは、歯の周囲にある組織へのダメージや食べ物の噛みづらさなどに繋がります。このような状態の歯に被せ物を装着して、隣の歯と繋ぎ合わせることで、歯を揺れにくくし安定させる治療方法を、歯周補綴と言います。

▶抜歯
歯周病の進行状態によっては、なるべく歯を残せる治療方法を考えます。しかしながら、痛みが続いたり、他の歯へ病巣が拡がってしまったりする場合は、お口の中への影響をなるべく最小限に留めるために、抜歯をした方がいいこともあります。抜歯を行う際は、しっかりと理由を説明し、患者さんに納得していただいた上で行います。

歯周病で歯を失っても歯列矯正可能な方法もあります!

厚生労働省と日本歯科医師会が推奨する「8020運動」をご存じでしょうか?
この運動は「80歳になっても20本以上、自分の歯を保とう」ということを目標にしており、「生涯に渡り、自分の歯で食事する楽しみを感じてほしい」という願いが込められています。
自分の歯が20本以上残っていれば、食事はほぼスムーズに行えます。

歯列矯正は、8020運動を達成するために非常に有効です。

歯列矯正といえば歯並びを整えるイメージが強いですが、お口の機能として大切な咬み合せも改善することができます。歯列矯正を行うことでしっかり咀嚼できるようになれば、唾液の分泌や循環が良くなります。その結果、プラークなどの汚れが停滞しにくくなり、虫歯のリスクを軽減させることが可能です。食べ物の消化もスムーズになるので、胃や腸などの消化器官の負担がかかりにくくなるというメリットもあります。

歯周病により、残せないと診断された歯や抜歯した歯があっても、矯正治療が行える場合があります。3つの主な治療方法をご紹介します。

①矯正治療で便宜抜歯(歯を動かすスペースを確保するための抜歯)が必要ないと診断された場合
保存不可能で既に抜歯した部分のスペースを空けたまま矯正治療を勧めて、一度治療を完了させます。その後、空けておいたスペースに人工歯(ブリッジ、入れ歯、インプラントなど)を入れます。

②矯正治療で便宜抜歯が必要な場合
第一小臼歯が抜歯の対象になることが多いです。しかし、保存不可能で既に抜歯している歯がある場合、この抜歯したスペースを利用して矯正治療を行なう方法もあります。考え方としては、抜歯の対象となる歯を置き換えるようなイメージです。

③親知らずを利用できる場合
歯周病で失った歯の部分に親知らずを移植して、矯正治療を行なう方法もあります。

歯周病の状態で矯正治療をすると、歯に大きな力がかかりリスクを伴うこともありますが、比較的軽度な場合や、歯周病治療を行なうことで症状が改善し矯正治療が可能になる場合もあります。まずは一度、歯科医院に相談してみましょう。

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監修者:増岡尚哉

歯科医師・歯学博士(D.D.S. , Ph.D.)|マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)の講師として歯科医師向けに講義・講演活動をしています。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。

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