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歯列矯正の基礎知識コラム

「急速拡大装置」はまだお子さまの顎骨が柔らかい時期の治療に使われる装置で、上あごの横幅を広げるための固定式の装置のことです。今回は急速拡大装置の特徴や、どのような治療で使われるのか?またメリット・デメリットについてご紹介させていただきます。


【目次】
急速拡大装置とは?
急速拡大装置のメリット
急速拡大床装置のデメリット
急速拡大装置の使用時の注意点
・適応年齢が限られている
・上顎のみで下顎は拡大できない
・鼻が横に広がる可能性も
・急速拡大装置は他の治療との併用も多い
結局のところ急速拡大装置は使うべき?
急速拡大装置は大人でも使用できる?
急速拡大装置は小さいときこそ効果大。早めの受診がおすすめ


拡大床(拡大装置)とは?

拡大床(拡大装置)とは、上顎の横幅を拡大してスペースを作るための装置です。歯がきれいに並ぶためのスペースが足りないケースなどで用いられる方法です。

拡大方法は大きく分けて2通りあります。「急速拡大法」と「緩徐拡大法」です。

【急速拡大法】は比較的短期間で上顎の横幅を広げるための固定式の装置です。装置を使用する期間は2週間~2ヶ月程度が一般的です。

成長期の子供さんの上顎骨は2枚の骨が合わさっていますが、まだ、完全にくっついていません。この2枚の骨が離れる方向に大きな力をかけると離開するのです。

離開後、一定期間スペースを保つと間に新生骨ができ安定してきます。この現象を利用して、大きな拡大を行ないます。

【緩徐拡大法】は1〜2年かけて徐々に歯列を側方・前方に拡大する装置です。

急速拡大装置と同様、歯が並ぶスペースの足りない症例に使用していきます。子どもの顎の成長期に合わせてゆっくりと無理なく拡大するため、痛みなどの負担も少ないです。急速拡大装置ほどのスペースは獲得できませんが、用いる頻度の高い装置です。

緩徐拡大装置には

・固定式(W-type拡大装置)
・取り外し式(プレートタイプ拡大装置)


の2種類があります。

拡大装置のメリット

急速拡大装置の最大のメリットは、上顎の骨の成長を促し骨格や歯列のアンバランスを同時に改善できるということです。

永久歯が全て生え揃う前(混合歯列期)に治療をスタートできれば、永久歯がきれいに生え揃うスペースを確保できるので、矯正治療のための便宜抜歯を回避することができます。

上顎を広げることで鼻呼吸しやすい環境を作り出せ、鼻腔が広がることで口呼吸から鼻呼吸への改善が期待できる(上顎が狭いと空気の通り穴である鼻腔も狭いことが多く、鼻呼吸がしにくくなる場合があります)のも大きなメリットのひとつです。

拡大床装置のデメリット

急速拡大床のデメリットは、装置による違和感が強い点が挙げられます。装置を接着剤で歯に固定するので自分で取り外しすることはできません。

装置を装着した後1週間程度は、これまでとは違った感覚の違いによりストレスを感じる方もいるかもしれません。

「発音がしづらい・・・」
「飲み込みにくい・・・」

といった違和感のほか、鼻や口元にツンとした痛みが起こる場合があります。

その他に考えられることとしては、固定式の装置の場合、食べ物が装置につきやすく歯磨きが難しくなることが欠点です。

ワイヤーやネジの部分に汚れが停滞しやすいので、小さなお子様の場合は仕上げ磨きをするなどしてご家族のサポートが必要です。

拡大装置使用時の注意点

急速拡大装置にはスクリュー(装置の横幅を広げるための調節ねじ)が埋め込んであります。保護者の方には、1日に決められた回数・決められた量に従って、ねじを回してあげる必要があります。

また、装置に汚れが付着しやすいため、治療期間中は粘着性のある食べ物などはできるだけ避けていただく事をおすすめします。

緩徐拡大装置の取り外せるタイプを使用する場合には、1日12時間〜15時間程度を目安に装置をつけたいただく必要があります。最初は舌が当たって話しづらかったり、食事がしにくいなどの違和感が出ることが考えられます。

取り外せるタイプはきっちりと使用時間を守らなければ効果ができないため、親御さんの管理も大事になります。もしも装置のにおいが気になる場合には、洗浄剤を使用していただくとにおいも汚れもスッキリします。

この他、お子様の矯正治療で拡大装置を使用される際には以下のことに注意いただく必要があります。

適応年齢が限られている

「急速拡大装置」の効果が期待できる年齢は、左右の顎のつなぎ目の正中口蓋縫合が自然に開くことができる年齢を考えると、思春期くらいまでと言われています。

上顎が狭いことによって臼歯(奥歯)のかみ合わせに問題が生じているケース(交叉咬合)の治療に使用されますが、それ以外でも上顎の横幅の拡大が必要な場合に使用されることがあります。

小児矯正では、永久歯が生え揃う前(混合歯列期)の時期に急速拡大装置での顎の幅を広げて歯を動かす隙間を作ることをします。混合歯列期の目安は6歳~12歳前後といわれていますが、体の成長はお一人おひとり異なりますので、歯科医師による口腔内の検査・診断が必要です。

上顎のみで下顎は拡大できない

「急速拡大装置」は上顎にのみ用いることができるもので、下顎については広げることができません。

すなわち「上顎が狭い(小さい)」という方の場合は急速拡大装置でうまくコントロールできるかもしれませんが、「上顎も下顎もどちらも小さい」という場合には、上顎だけを大きくすることで上下の噛み合わせを悪くしてしまうリスクも考えられます。

急速拡大装置は、お口の状況や骨格のバランスなどを踏まえて治療を行うか検討する必要があります。

鼻が横に広がる可能性も

上顎が成長すると鼻腔が広がります。多くの場合、鼻の通りが良くなり鼻呼吸がしやすくなるため、風邪をひきにくくなり、鼻アレルギー・喘息などの症状が緩和されるといった傾向があります。

そのため、急速拡大装置を使うことによって鼻腔が広がり鼻呼吸に役立ちますが、程度により鼻が横に広がるリスクがあります。

急速拡大装置は他の治療との併用も多い

急速拡大装置は顎の幅を広げて歯を動かすことで隙間をつくります。しかし拡大装置だけでは永久歯の歯並びまできれいに並ぶとは限りません。

かみ合わせや歯の向きを整えるといった三次元的に歯を動かすためには、ブラケットやマウスピース矯正(インビザライン)のような装置を併用する必要性があります。

結局のところ急速拡大装置は使うべき?

急速拡大装置は上顎の成長を促し、骨格のアンバランスを改善することが可能です。

永久歯が生え揃う前にスペースを確保できれば、便宜抜歯(健康な歯を矯正のために抜歯すること)を避けることができます。

また鼻の空気が通る鼻腔が広がるので、口呼吸を改善し鼻呼吸を促すことも期待できます。

ただし、上記でご説明させていただいた通り、お子様の歯並びや年齢、かみ合わせによっては別の方法がベストな場合もありますのでまずはご相談いただくことをお勧めします。

急速拡大装置は大人でも使用できる?

もし成人で拡大装置をされる場合、非常に限られますが~25歳ほどが限界と言われてきました(永久歯が生えそろうのが遅かった方など)。

従来の急速拡大では「成人では上顎骨の正中の癒着が進んでいるため、お子様のように上顎の骨を割り広げることができない」という欠点がありましたが、それを解消するために「アンカースクリュー」を用いた拡大法が登場しました。

これは、矯正用のアンカースクリュー(固定源となる「ねじ」)を上顎の骨に埋め込み、力をかけて広げていくという方法です。この方法もすべての方に適している訳ではありませんので、担当の歯科医師に希望を伝え、可能かどうかの判断を仰ぐ必要があります。

急速拡大装置は小さいときこそ効果大。早めの受診がおすすめ!

お子様の歯列矯正を受けさせるべきか迷っているご家族の方も多いと思います。

歯並びを骨格から整えられる期間は子どものうちのほんのわずかな期間のみなのです。

「歯並びが悪いけど成長とともに綺麗になるかも・・・」と待っていると、歯列矯正のベストタイミングを見逃してしまうことにもなりかねません。

当院では矯正医による無料カウンセリングを実施しており、お子様の矯正治療の実績も豊富にございます。

矯正は必要なのか?いつごろ始めるのが良いのか?など、お気軽にご相談いただければと思います。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。