COLUMN

歯列矯正の基礎知識コラム

【監修:歯科医師 増岡尚哉】


深い噛み合わせの過蓋咬合(かがいこうごう)は、マウスピース型矯正装置による矯正治療で対応が可能なケースがあります。

しかし過蓋咬合の原因や症例、治療費などが分からないと治療が不安に感じてしまいますよね。

そんな方のために、今回は過蓋咬合の矯正治療について、その内容を詳しく説明していきます。

【目次】
1、噛み合わせが深くなる過蓋咬合とは?
 ・過蓋咬合の原因
2、過蓋咬合の放置リスク
 ・過蓋咬合治療の基本的な考え方
3、過蓋咬合治療の主な治療方法
4、どこまで治せる?過蓋咬合の矯正例
 ・<症例①>23歳3ヶ月
 ・<症例②>8歳11ヶ月
5、過蓋咬合は保険で矯正治療を受けられる?
 ・健康保険が適用されるケース
 ・健康保険が適用されないケース

噛み合わせが深くなる過蓋咬合とは?


通常の歯の場合、奥歯を噛み合わせた場合、正面から見た場合、上の前歯が下の前歯に2~3ミリほど被さった状態でいます。

しかし、下の前歯が上の前歯に覆いかぶされた状態である場合があり、この状態を「過蓋咬合(かがいこうごう)」と言います。

この過蓋咬合は、噛み合わせが悪いことを意味する不正咬合(ふせいこうごう)の1つとして数えられますが、患者様によっては気にしない方も多く、積極的には治療されていないのが現状です。

その背景には過蓋咬合であったとしても、これといって支障をきたさないことが理由としてあげられます。ただし噛み合わせが悪いまま放置すると、顎関節症(がくかんせつしょう)の原因にもなるため、注意が必要です。

過蓋咬合の場合、歯と歯の接触が多いことで顎の関節が動かしづらくなり、口が開きにくくなるといったケースも珍しくありません。

過蓋咬合の原因

また過蓋咬合の原因は、遺伝と習慣の場合があります。遺伝については、もともと歯や骨が大きかったり成長過程で偏りができてしまったりということが考えられます。その場合、予防はほとんど無理といっていいでしょう。

習慣による場合は、舌癖(ぜつへき)や口呼吸といった普段の癖が原因として考えられます。遺伝とは違い、癖を直すための方法がありますので、トレーニングをすることで過蓋咬合の症状が改善できる可能性があります。

過蓋咬合の放置リスク

過蓋咬合を治療せずに放置していた場合、以下のリスクがあります。

①歯が摩耗する
下の歯列が上の歯列によってすり減らされ、歯を菌から守っているエナメル質が摩耗。結果的に歯周病や虫歯のリスクを倍増させ、歯の欠損にもつながる可能性も考えられます。

➁かみ合わせが悪化
前述の通り、歯が摩耗することによって、余計歯並びが悪くなる場合も考えられます。また過蓋咬合を放置することで、下の前歯が上の前歯を外へと押し出し、出っ歯になる可能性もあります。

③顎関節症になるリスクがある
過蓋咬合を放置していると、歯を噛んだときの圧力が分散されずに、顎に負担がかかり、最悪の場合、顎関節症にかかる場合もあります。顎関節症になると、大きく口を開けなかったり、咀嚼や発音に障害が出てきます。

④さまざまな二次障がいをもたらす
過蓋咬合によって歯が摩耗し、歯並びが悪化することで、咀嚼がうまくできず、胃腸に負担がかかったり、頭痛や肩こり等の二次障がいが起こることも考えられます。

過蓋咬合治療の基本的な考え方

過蓋咬合治療では、以下の3通りの基本的な治療の考え方があります。

①歯を引き出す(挺出):
沈んだ奥歯を上に引っ張り、高さを調整します。顎間ゴム等を奥歯に引っ掛ける方法が一般的です。

➁歯を押し込む(圧下):
歯を歯茎より下に押し込む方法。一般的にアンカースクリュー等を使い、時間をかけて歯を沈めていきます。

③前歯を傾かせる(傾斜移動):
前歯を前方に傾かせて、歯列弓を広げ、上下の歯の噛み合わせを調整します。下の前歯が内側に傾いている過蓋咬合に有効な方法で、マウスピース矯正が得意とする治療法です。

通常の過蓋咬合の治療では、これら3通りを単体だけで行うのは少なく、組み合わせて行う場合がほとんどです。

過蓋咬合治療の主な治療方法


過蓋咬合矯正では主に

①ワイヤー矯正
➁マウスピース矯正

の2通りの方法が用いられます。それぞれのメリットとデメリットは以下の通りです。


ワイヤー矯正 マウスピース矯正
歯の動かし方 ・歯の表面又は裏面にブラケットという矯正器具をつけて、それにワイヤーを通して、歯を動かしていく方法。
・圧下等、強い力が必要な矯正に適している。
・透明なマウスピースを使って歯を動かしていく方法。
メリット ・比較的深刻な過蓋咬合にも対応できる
・歯に固定されるため、つけ忘れがない。
・通院回数が多いため、歯の変化に対応しやすい。
・透明なので目立たない。
・器具の脱着可能なので、器具を外して食事や歯磨きができる
・ワイヤーに比べソフトな感触で痛みを感じづらく、口内を傷つけにくい。
・通院回数(1~2か月で1回)が少なくてすむ
デメリット ・装着時に痛み・違和感を感じやすく、口内を傷つけやすい。
・矯正器具が目立つ。
・歯磨きがしづらい。
・マウスピースより通院回数2週間~1月で1回)が多い。
・金属アレルギーがある人は使用できない。
・対応症例が限られる。
・脱着できるので、自己管理が難しい
・装着時間が短いと歯が動かないため使用状況が悪いと治療期間が長くなる

過蓋咬合治療は、これらにアンカースクリューや顎間ゴム等の補助器具をプラスして、治療していきます。

それぞれにメリット・デメリットがあり、治療結果は医師の腕に大きく関わってきます。

治療方法を選ぶ際は、それぞれのメリット・デメリットを検討し、歯科医院で専門家に相談してみるとよいでしょう。

どこまで治せる?過蓋咬合の矯正例

矯正によってどこまで治るのかは重要なチェックポイントですよね。見た目が変わらなければ治療する意味がないと考える方も少なくないでしょう。ここでは実際の症例を大人と子供の場合で紹介します。

<症例①>23歳3ヶ月



初診時年齢 23歳3ヶ月
主訴 前歯のガタガタ
診断 過蓋咬合
抜歯の有無 非抜歯
治療内容 マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)を使用して過蓋咬合と主訴である
下あご前歯の叢生の改善を行いました。
治療期間 2年 通院回数18回
リスク 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがあります。
矯正中は矯正歯科装置が歯の表面についているため食物が溜まりやすく、また歯が磨きにくくなるため、虫歯や歯周病が生じるリスクがあります。
歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
費用 80万円

矯正歯科治療は公的健康保険の対象外の自由(自費)診療となります。

上の前歯が下の前歯を隠すようになっており、下の前歯が後ろに引っ込む形で歯列が前後にガタガタの状態となっていました。診断結果は過蓋咬合で、マウスピース型矯正装置による矯正治療が提案されました。

矯正治療が進むにつれて過蓋咬合が改善され、下の前歯の叢生(そうせい)、いわゆるデコボコの歯列も合わせて改善されました。治療後には綺麗な歯並びになり、過蓋咬合が改善されたことがわかります。

<症例②>8歳11ヶ月



初診時年齢 7歳4ヶ月
主訴 前歯の隙間が気になる
診断
正中線の不一致と叢生を伴う過蓋咬合
抜歯の有無 非抜歯
治療内容 マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン完成物薬機法外)を使用して主訴である前歯の隙間を閉じると同時に永久歯の生える場所を確保すると同時に、前歯のかみ合わせが深い過蓋咬合についても前歯の重なりがなくなるように改善しました。
治療期間 9カ月 通院回数8回
リスク 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがあります。
治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。
歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
費用 40万円

矯正歯科治療は公的健康保険の対象外の自由(自費)診療となります。

症状は、上の前歯が下の前歯を隠しており、なおかつ上と下の歯列で中心線がずれてしまっていました。

診断結果は過蓋咬合と、左上の乳犬歯が早く抜けてしまったことによる歯列のずれでした。

子供のマウスピース型矯正装置による矯正治療が提案されました。

成長過程の歯列に対応した子供のマウスピース型矯正装置による矯正治療が進むと、徐々に過蓋咬合が改善されていき、乳犬歯が抜けた隙間も回復。

治療後には過蓋咬合はすっかり治り、犬歯が生えてくる分の隙間ができたことで上下の歯列の中心線もきれいに揃っています。

過蓋咬合は保険で矯正治療を受けられる?

矯正治療は、多くの方が考えるとおり高額になるケースは少なくありません。過蓋咬合の矯正治療で保険が適用されるかどうかは、過蓋咬合の症状によります。すべての矯正治療で保険が適用されるわけではないため、費用面での判断は慎重に行うべきと言えるでしょう。以下では健康保険が適用されるケースと適用されないケースを詳しく見ていきたいと思います。

健康保険が適用されるケース

過蓋咬合の矯正治療に保険が適用されるケースは、厚生労働大臣によって定められた先天性の病気による噛み合わせの異常、もしくは外科手術を必要とする顎の変形により過蓋咬合となっている場合が該当します。保険治療では、指定自立支援医療機関(育成・更生医療)で治療を受けること、決められたプロセスでの治療が必要です。具体的な機関名は、たとえば東京であれば東京都福祉保健局のホームページにて情報を提供しています。

東京都福祉保健局のホームページ

健康保険が適用される場合の治療費については、一般的な矯正で3割負担の場合は約25万円、顎の手術が必要な場合の手術・入院費用の場合が25~40万円となっています。保険が適用される症状は基本的に重度のものであるため、見た目をきれいにする目的の治療は、ほとんどの場合自由診療になると考えておいたほうがよいでしょう。

健康保険が適用されないケース

健康保険が適用されない場合の治療費は、歯列全体の治療で40~80万円です。

また金利手数料なしの24回払いのプランを利用すれば、治療費以外の費用を使わずに清算することができます。当院では矯正治療をするかどうかにかかわらず、治療内容や治療費用などについてカウンセリングを受けられます。

過蓋咬合は、ガミースマイルをはじめとして他の不正咬合を伴っているケースもあります。

ガミースマイルが気になっているという方や、面長の顔に悩んでいるが過蓋咬合の矯正によって顔の変化はあるのか、といった疑問をお持ちの方もお気軽にご相談ください。

当院で行う矯正治療は、マウスピース型カスタムメイド矯正装置(製品名 インビザライン 完成物薬機法対象外)を1日20時間以上(目安)装着して歯を移動させる治療法です。
1週間~2週間毎に患者様ご自身で新しい装置へ交換していただくため、自己管理が重要です。
装置の枚数、交換のタイミング、治療期間は患者様ごとに異なるため、担当医の指示に従って治療を受ける必要があります。
マウスピース型矯正歯科装置(製品名インビザライン完成物薬機法対象外)は医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けていない未承認医薬品です。
マウスピース型矯正歯科装置(製品名インビザライン完成物薬機法外)はアラインテクノロジー社の製品であり、インビザライン・ジャパン社を介して入手しています。
国内にもマウスピース型矯正歯科装置として医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けているものは複数存在します。
【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】
① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、
一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者
さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくく
なるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、
お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一
部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)や
むし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せ
の「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢
や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。





【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。