顎がない「下顎後退症(顎変形症)」は手術なしで矯正できる?矯正医が解説
顎が引っ込んでいてまるで存在しないように見える「下顎後退症(顎変形症)」は、自身の見た目に敏感な人にとっては大問題です。
しかし、治療を受けたいと思っても勇気を出すのはなかなか難しいですよね。なんとか矯正治療だけで改善できないかと考えるのは自然なことでしょう。
今回は矯正医の視点から手術をせずに矯正治療でどこまで対応できるかを詳しく解説していきます。
【目次】
1、顎がない、それは「下顎後退症」かも?
・アデノイド顔貌が原因であることも
2、下顎後退症がもたらす悪影響
3、下顎後退症の治療は外科的手術と矯正治療が主体
・下顎後退症は外科的手術なし矯正のみで治療は可能か?
・下顎後退症の治療は保険が適応される
4、下顎後退症の診断方法
5、自分の症状は矯正で治療できるの?お悩みの方は当院にご相談を
顎がない、それは「下顎後退症」かも?
「下顎後退症」とは上顎に対して下顎が後方にある状態のことを言います。位置がずれていることによって顎のラインが不明瞭になり、下顎が通常より小さく見えることが特徴です。
また、口を閉じにくい、正ししく噛み合わせることが難しい、下の歯が上の歯よりも前に出る(オーバーバイト)といった状態になることもあります。
この症状の原因としては、遺伝的要素や環境的要因、アレルギーや咽頭扁桃腺肥大(アデノイド)による影響、骨格的要因などが考えられます。
アデノイド顔貌が原因であることも
下顎後退症はアデノイド顔貌と関連していると考えられています。
アデノイドとは鼻と喉の中間にある咽頭扁桃のことです。成長過程などでアデノイドが一時的に肥大化すると、気道が狭窄して鼻呼吸が難しくなるため口呼吸するようになります。
アデノイドの大きさが正常化しても口呼吸の癖が抜けない場合、口周りの筋肉が適切に発達せず下顎の成長が妨げられてしまい下顎後退症へと繋がることがあるのです。
また、口呼吸はいびきや睡眠時無呼吸症候群などの原因にもなるため、幼少期から習慣化させないことが非常に重要です。
具体的な改善方法として、「あいうべ」体操と呼ばれる口周りの筋肉や舌を鍛える運動を行なって意識的に鼻呼吸させるようにする、指しゃぶりの癖をやめさせるなどが挙げられます。
ただし、アデノイドの肥大化が炎症によるものならば治療を行う必要があるため、お子様に口呼吸の傾向がみられた時は一度耳鼻科を受診するようにしましょう。
下顎後退症がもたらす悪影響
【噛み合わせの問題】
下顎が後退していることで、上の前歯が下の前歯を覆ってしまう過蓋咬合と呼ばれる状態になります。本来の正しい噛み合わせとは異なるため、見た目だけでなく健康にも影響を及ぼすおそれがあります。
【呼吸への影響】
通常、人間は鼻呼吸を行います。しかし下顎後退症の場合は気道が圧迫されるため、鼻呼吸が難しくなって口呼吸をすることが増えます。鼻呼吸は鼻腔内の繊毛が細菌やウイルスの侵入を防ぐ役割を果たしますが、口呼吸にはこのような機能が欠けています。そのため、細菌やウイルスが直接体内に侵入しやすくなり風邪をひく確率が高まってしまうのです。
また、口呼吸によって体内に入る細菌やウイルスが増加することでアデノイドが肥大し、さらに口呼吸するようになるという悪循環を引き起こすこともあります。
下顎後退症の治療は外科的手術と矯正治療が主体
通常の矯正治療だけでは改善が難しい場合には外科的手術と通常の矯正治療を組み合わせて治療を行います。
顎の骨を外科的手術によって修正し、機能的かつ審美的に改善していくのです。
【治療の流れ】
最初に通常の矯正治療を行います。この段階では、手術によって顎の位置関係が変わった際に上顎と下顎がしっかりと噛み合うようにワイヤー矯正で歯を動かしておきます。治療期間は1〜2年程度で、通院は月に1回程度です。
矯正治療によって歯が動いたら、外科的手術を行います。
術後の経過にもよりますが、手術後の入院期間は通常10日~二週間くらいです。また、骨がしっかり固定されるまでにはおおよそ2ヶ月かかります。処置直後は移動した骨や筋肉が元の位置に戻ろうとするため、位置を安定させるためにワイヤーにゴムをかけて経過を観察します。
骨の状態が安定したら噛み合わせの位置の最終調整を行います。この調整期間は約1年で、通院は月1回程度です。
下顎後退症は外科的手術なし矯正のみで治療は可能か?
下顎後退症の症状が軽度の場合、外科的手術をせずに矯正治療のみで治療を行うことができます。
ただし、矯正治療には抜歯が必要になるケースが多いです。
抜歯にためらいを感じる方も中にはいらっしゃるでしょう。しかし、歯を抜くことによってスペースが空けば、上顎の歯並びを整えつつ全体的に後方へ移動させることができ、結果、下顎との差を少なくすることができるのです。
なお、この治療では出っ歯気味の状態(上顎前突)を目立たなくする面に重点を置くため、機能面だけではなく審美面の改善にも繋がります。
また、矯正治療にはインビザラインを使用することができます。装置が透明で目立たずに治療を行うことができるため外見を気にする方には適していると言えるでしょう。
とはいえ、お口の中の状態によって最適な治療方法は異なります。専門医と相談しながら最適なプランを選択することが大切です。
下顎後退症の治療は保険が適応される
矯正治療は審美的な目的で行われることが多いため保険は適用されません。
ただし、顎の上下左右に過度な成長や骨格のずれがあったり、顎が変形して噛み合わせに異常が起きたりしている場合は、矯正治療にも保険を適用することができます。
該当例として、顎変形症や上顎前突、下顎前突、上顎後退、下顎後退、開口などが挙げられます。
一般的に、矯正治療にかかる費用は100万円程度です。保険が適用されれば自己負担額は30万円程度ですみます。ただし、治療のたびに費用を払う必要がありますので通院期間や回数が増えればその分治療費も増えることになります。少しでも治療費を軽減させるために医療費控除の利用を検討されるとよいでしょう。
下顎後退症の診断方法
下顎後退症の診断は、主に問診やX線、CT撮影などを用いて行われます。
X線やCTの画像で骨格の状態までしっかりと把握することができるため、ただお口の中を見るだけの検査に比べて精度が増し、診断にかかる時間が短縮します。
患者様お一人お一人に合ったプランで効果的に治療を進めていくためには適切な検査と正確な診断が必要です。歯科医院には痛みや怖さといったイメージがあるかもしれませんが、下顎後退症の検査においてそれらの心配は必要ありません。どうぞ安心して検査をお受けください。
自分の症状は矯正で治療できるの?お悩みの方は当院にご相談を
外科的な処置を避けて矯正治療で改善したいと考える方もいらっしゃるでしょう。
ご希望通りに治療が行えるかどうかを判断するためには、正しい診断が必要です。
当院は、X線やCTの他にセファログラムを完備しております。セファログラムとは矯正歯科専用のレントゲンです。その画像によって、顎の位置だけではなく、顔面や頭部の骨格なども踏まえて診断を行うことができます。
もし、顎の状態でお悩みのようなら、お気軽にご相談ください。
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