COLUMN

歯列矯正の基礎知識コラム

【監修:歯科医師 増岡尚哉】


悪い噛み合わせは、虫歯や歯周病のリスクを上げるだけでなく、頭痛や胃腸への負担等、全身に悪影響を及ぼします。噛み合わせの悪い症状と原因、放置するリスクをお伝えし、矯正治療での解決方法を解説します。

【目次】
1.噛み合わせの悪い症状とは?​
2.なぜ噛み合わせは悪くなるのか
3.噛み合わせの悪い歯を放置するするリスク
4.噛み合わせの悪い歯の代表的な治療方法
  ・マウスピース型矯正装置による矯正治療
  ・ワイヤー矯正
  ・補綴(ほてつ)治療
  ・外科的治療
5.自力で治すことはできる?
6.噛み合わせの悪さは矯正治療で解決

噛み合わせの悪い症状とは?

<過蓋咬合>
奥歯で噛んだ時、上顎前歯によって下顎前歯が覆われてしまう、深いかみ合わせのこと。

<交叉咬合>
上下の奥歯が横にズレて、前歯の中心が合わない状態のこと。

<叢生>
”乱ぐい歯”のこと。前後に歯が重なり、デコボコしている状態。

<開咬>
奥歯をかみ合わせた時に、上下の前歯がかみ合っていない状態。
▷▷▷食べ物がうまく噛みきれなかったり、顎関節症のリスクが高まる。

<上顎前突>
”出っ歯”の事。上顎の歯が下顎の歯より大きく前方に突き出している状態。
▷▷▷口が閉じにくいため、口腔内が乾燥しやすく虫歯のリスクを高める。

<下顎前突>
”受け口”のこと。下顎の歯が上顎の歯より大きく前方に出ている状態。
▷▷▷奥歯に負担がかかりやすく、将来歯を失うリスク・顎関節症のリスクが高まる。

なぜ噛み合わせは悪くなるのか

<過蓋咬合>
→上顎の過成長・下顎の劣成長・奥歯の高さが合っていない・歯ぎしり

<交叉咬合>
→頬杖・毎回同じ側を下にして寝ている等の外力・指しゃぶり・口呼吸

<叢生・乱ぐい歯>
→ 指しゃぶり・口呼吸・低位舌・歯と顎の大きさのバランスの乱れ

<開咬>
→指しゃぶり・口呼吸・低位舌・舌を出す、歯に押し付ける癖

<上顎前突>
→指しゃぶり・口呼吸・低位舌・上顎の過成長・下顎の劣成長

<下顎前突>
→遺伝・顎の成長期の悪習癖・下顎の過成長・上顎の劣成長


不正咬合の原因を表すグラフ

不正咬合の原因を表すグラフ

●3歳以降の指しゃぶり:吸っている指が前歯を押し、開咬・上顎前突の原因に。

●歯ぎしり・食いしばり:歯に負担がかかることで根の向きが変わり、歯並びが乱れる。
▷▷▷ストレス発散をする・メモを見えるところに貼って意識をしましょう。

●爪・唇をかむ:上下の歯に強い力を与え、上顎前歯が前へ出る・下顎が前後に乱れる
▷▷▷しっかり睡眠をとり、健康的な食事を心がけ、ストレスケアをしましょう。

●舌癖(舌を出す・舌を歯に押し付ける・舌が悪い位置にあるなど):舌がスポットから離れ、前歯に余計な力がかかり上下顎前突、開咬の原因となる。
▷▷▷舌をスポットにおくように意識をしたり、あいうべ体操を行ってみましょう。

●頬杖:片方に力がかかり、交叉咬合(歯列の途中が交叉している状態)や、左右非対称の歯並びの原因になります。
▷▷▷頬杖をつく癖は、気が付いたらしないようにし、早めに治しましょう。

●うつ伏せ寝:顔を押し当てることで歯が圧迫され歯列不正を引き起こします。口呼吸にもなりやすく、その結果、上顎前突になることもあります。
▷▷▷横向き寝も片方に力がかかるので、仰向けで寝るようにしましょう。

●口呼吸:舌が下方に下がり、上顎が上手く拡がることができず、上顎前突や開咬の原因になります。また舌が歯を押し出し叢生にもなります。
▷▷▷テープを利用したり、できるだけ鼻呼吸を意識しましょう。

●猫背:重心がかかとにかかり、下顎が後ろに引っ張られ出っ歯になるリスクが高まる

噛み合わせの悪い歯を放置するするリスク

<過蓋咬合>
→上顎前歯の裏側の歯茎を噛んでしまうリスク

<交叉咬合>
→咀嚼・嚥下が困難になる場合がある

<叢生・乱ぐい歯>
→歯磨きがしにくいため、虫歯のリスクが高くなる

<開咬>
→食べ物がうまく噛みきれない・発音への影響・顎関節症のリスクが高まる

<上顎前突>
→口が閉じにくいため、口腔内が乾燥しやすく虫歯のリスクを高める

<下顎前突>
→奥歯に負担がかかりやすく、歯磨きもしにくく虫歯のリスクを高める

●むし歯や歯周病のリスクや口臭が増える
噛み合わせが悪いと口が閉じにくくなることが多いです。その結果、”口呼吸”になってしまいます。口呼吸をしていると、口腔内が乾燥し、唾液の分泌量が減少します。

唾液が持つ機能には

・自浄作用(口腔内の汚れを洗い流し、きれいに保つ作用)
・抗菌作用(抗菌物質によって、粘膜等を保護する作用)

これらがあります。唾液が減ることによって、むし歯菌・歯周病菌が増殖し、口腔内が不衛生となり、むし歯・歯周病のリスクが高まり、口臭の原因にもなります。

●発音障害を引き起こす:不正咬合の種類によって”サ・タ行”の発音が不明瞭になる。

●顎関節症を引き起こす:噛み合わせの悪さは顎に負担がかかり”顎関節症”の原因になる。

●顔が歪む:噛み合わせがズレると、片噛みになり表情筋のバランスが崩れてしまう。

●胃腸へ負担がかかる:食物を十分に咀嚼出来ず、唾液の分泌も減ってしまうため、胃腸へ負担がかかってしまう。

●頭痛・肩こりの原因になる:噛み合わせが悪化すると血流が滞り、頭痛や肩こりの原因になることもある。

●精神面への影響・ストレスの原因になる:口元に自信が持てず上手く笑えなくなる。

噛み合わせの悪い歯の代表的な治療方法

マウスピース型矯正装置による矯正治療

一人ひとりに合わせたマウスピースで歯を動かす治療方法。(マウスピースは1週間〜10日ごとに交換、1日20時間以上つける必要があります。)

▼治療方法
 1.歯の全体の状態の検査(レントゲン、歯型、口腔内・顔写真等)を行う。
 2.専用の機械を用いてスキャニング
 3.矯正シュミレーション(パソコンで治療の仕上がりを確認)
 4.治療期間・治療計画のお話、決定。(※マウスピースが医院に届くまで1ヶ月程お時間を頂きます)
 5.マウスピース矯正のスタート

▼治療期間:1〜3年(個人差あり)

▼一般的なと治療費(装置代):80〜150万円 その他費用:通院時の調整料など

ワイヤー矯正

ブラケットと呼ばれる器具を歯に接着させ、ブラケットにワイヤーをつけ歯を移動させる矯正治療のこと。一度接着させると簡単に外すことは出来ません。

▼治療方法
 1.歯の全体の状態の検査(レントゲン、歯型、口腔内・顔写真等)・診断を行う。
 2.診断・治療方針のお話、決定。
 3.矯正装置(ブラケット、ワイヤー)を歯に装着する。
 4.1ヶ月〜2ヶ月に1回来院して頂きワイヤー調整を行う。

▼治療期間:1〜3年(個人差あり)

▼一般的な金額(装置代):60〜130万円 その他費用:通院時の調整料など

補綴(ほてつ)治療

<セラミッククラウン>:歯を削って形を整え、セラミックを被せる治療方法。

▼対応症例:歯の大きさや傾きを修復し、バランスの取れた前歯することが可能

<メリット>
・歯並び・歯の形・歯の色をご自身で選べる
・矯正治療に比べて治療期間が短い

<デメリット>
・歯を削る(歯の寿命が短くなることもある)
・セラミックが欠けたり、取れることがある

▼治療方法
1.治したい歯の傾き・ねじれ等を考慮し、歯を削って形を整え土台を作る。(この時に、歯の色も確認し色合わせも行います。)

2.セラミックを被せるまで仮歯で過ごす。仮歯にも意味があり、見た目やかみ合わせに違和感がないか確認。(仮歯の色は最終形とは異なります)

3.仮歯で過ごしてみて、問題がなければ出来上がったセラミックを被せる。

▼治療期間:来院回数2〜4回。期間1〜3ヶ月(修正回数などによって個人差あり)

▼金額:セラミック1本の相場、8〜18万円

<ラミネートベニア>:歯面を0.5㎜程削り、セラミックを貼り付け隙間を埋める方法。セラミッククラウンより歯を削る量が少なく済む。


▼対応症例:かみ合わせや咬合力、歯の傾斜などに大きな問題がない場合(使用するセラミックが薄いため、大きく歯の形を変える場合は適応外)

<メリット>
・歯の色、形をきれいに、白くできる
・セラミッククラウンより歯を削る量が少ない
・矯正治療と比べて安価
・矯正治療に比べて治療期間が短い

<デメリット>
・歯を0.5㎜程であっても削る必要がある
・材質が薄いので欠けたり、取れることがある

▼治療方法:歯の削る量が異なるだけで治療の流れはセラミッククラウンと同様。

▼治療期間:来院回数2〜4回。期間1〜3ヶ月(修正回数などによって個人差あり)

▼金額:(相場) 5〜10万円

外科的治療

顎変形症などの、骨格的な偏位(ズレ)が著しく、矯正治療だけでは十分な噛み合わせを確立することが困難な場合に行う外科的手術。


治療の
流れ
治療方法 治療期間
1 術前矯正 (ワイヤー矯正) 1〜2年
2 外科手術 (入院)1 1〜3週間
3 術後矯正 (ワイヤー矯正) 半年〜1年
4 保定 2年〜

▼金額:顎変形症の治療は健康保険が適用されます。(※ただし、顎口腔機能診断施設でのみ可能。検査までは自費となります。)

健康保険が適用される場合、次の2つの費用が必要となります。

・矯正治療の費用:一般的に30万円前後
・外科手術の費用:一般的に上下で約30〜35万円前後

(※高額療養費制度の対象、申請すると一部が払い戻しされます。)

自力で治すことはできる?

<自分で治せる可能性のあるケース・できること>

▼噛み合わせを悪くする”癖”やめる・治す
 
 ●歯ぎしり・食いしばり:歯に負担がかかることで根の向きが変わり、歯並びが乱れる。
 ▷▷▷ストレス発散をする・メモを見えるところに貼って意識をしましょう。

 ●爪・唇をかむ:上下の歯に強い力を与え、上顎前歯が前へ出る・下顎が前後に乱れる。
 ▷▷▷しっかり睡眠をとり、健康的な食事を心がけ、ストレスケアをしましょう。

 ●舌癖(舌を出す・舌を歯に押し付ける・舌が悪い位置にあるなど):舌がスポットから離れ、前歯に余計な力がかかり上下顎前突、開咬の原因となる。
 ▷▷▷舌をスポットにおくように意識をしたり、あいうべ体操を行ってみましょう。

 ●頬杖:片方に力がかかり、交叉咬合(歯列の途中が交叉している状態)や、左右非対称の歯並びの原因になります。
 ▷▷▷頬杖をつく癖は、気が付いたらしないようにし、早めに治しましょう。

 ●うつ伏せ寝:顔を押し当てることで歯が圧迫され歯列不正を引き起こします。口呼吸にもなりやすく、その結果、上顎前突になることもあります。
 ▷▷▷横向き寝も片方に力がかかるので、仰向けで寝るようにしましょう。

 ●口呼吸:舌が下方に下がり、上顎が上手く拡がることができず、上顎前突や 開咬の原因になります。また舌が歯を押し出して凸凹とした歯並びにもなります。

▼軽度の下顎前突

 ●トレーニング方(1日5〜10回行う)
 ①口を閉じる 
 ②舌を左下奥歯と頬の間に置く
 ③舌を右下奥歯と頬の間までゆっくり動かす
 ※この際に下顎前歯が内側に戻るように舌で押さえるように意識する
 
自力で治せる状態もありますが、残念ながら、上記の方法単独だけでは噛み合わせの悪い状態を自力で治すことは難しく、ほとんどの症例が自力で治すことはできません。

無理に自力で治そうとすることで過度な力が加わり危険を伴うこともあります。噛み合わせにお悩みの際は、矯正歯科を受診し専門医に相談することをおすすめします。

噛み合わせの悪さは矯正治療で解決

噛み合わせの悪い症状のほとんどを矯正治療で解決することが可能です。

ワイヤー矯正からマウスピース型矯正装置による矯正治療まで様々な方法があり、それぞれに長所・短所がございます。どんなことでもご相談ください。

またオンライン診療やメール相談など様々なご相談方法もご用意しております。まずはお気軽にご相談をお聞かせ下さい。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。