【監修医:矯正歯科学会 認定医&指導医 増岡 尚哉】


「前歯1本だけが少し出ている/ねじれている」「できれば安く・短期間で直したい」。そんなお悩みに対して、“部分だけ”を整える選択肢は実際にあります。
ただし、適応できるケースや得意・不得意は治療法によって異なります。
ここでは、前歯1本だけにフォーカスした治療ケースと、方法別(マウスピース・ワイヤー・セラミック)の向き不向き/費用・期間の目安を、注意点とともにわかりやすく整理します。

【目次】
1.前歯一本だけが出てしまった理由
 1-1 萌出時の位置ズレによる前歯の突出
 1-2 舌癖や口腔習慣による影響
 1-3 噛み合わせのアンバランス
 1-4 歯根や歯槽骨の形態異常
2.前歯一本だけ矯正の治療を比較
 2-1 マウスピースによる部分矯正
 2-2 ワイヤーによる部分矯正
 2-3 セラミック矯正
3.部分矯正と全体矯正の違い
4.部分矯正NGなケース3選
 4-1 噛み合わせ全体に影響がある場合
 4-2 歯列全体に凸凹がある場合
 4-3 顎の大きさや位置の不調和がある場合
5.「前歯1本だけ矯正」のよくある質問
6.気になる症状があればお気軽にご相談ください

前歯一本だけが出てしまった理由


前歯(特に上の中切歯)1本だけが出てしまう原因はいくつか考えられます。これは歯並び全体の問題というより、局所的な力やスペースの問題で起こることが多いです。主な理由は以下の通りです。

萌出時の位置ズレによる前歯の突出

永久歯が生える際、あごの骨や隣の歯とのスペースバランスが悪く、1本だけ前方に飛び出して生えてしまうことがあります。
この場合は「部分矯正(マウスピースやワイヤー)」で位置を整えることが可能です。
ただし、スペース不足が大きい場合は、全体矯正や小臼歯抜歯によってスペースを確保しながら治すこともあります。

舌癖や口腔習慣による影響

無意識に舌で歯を押す癖(舌突出癖)や、爪を噛む・ペンを噛むなどの習慣は、特定の歯にだけ力がかかり、前に出やすくなります。
この場合は、矯正治療と並行して舌癖を改善するトレーニングを行うことが重要です。癖を直さずに矯正だけ行うと、治療後に再び歯が前に出てしまう可能性が高くなります。

噛み合わせのアンバランス

下の歯との接触位置が悪いと、噛むたびに特定の前歯に前方への力がかかります。
この場合は全体矯正で噛み合わせそのものを改善する必要があります。部分矯正だけでは噛み合わせの原因が残るため、再発のリスクが高くなります。

歯根や歯槽骨の形態異常

歯の根がもともと前向きに生えていたり、歯を支える骨の形が非対称な場合、歯は自然に前方へ傾きやすくなります。
このケースでは、全体矯正で歯根の向きから修正します。治療前にはレントゲンやCTによる精密診断が必須です。

前歯一本だけ矯正の治療を比較


前歯1本の改善に向けた治療方法はいくつか挙げられます。主な方法とその特徴を比較してみましょう。

1.マウスピースによる部分矯正

透明なマウスピースを用いて気になる部分を矯正する治療方法です。そのため、全体の矯正に比べると費用は低価格で行うことができます。

<メリット>

  • 透明なので目立ちにくい
  • 通院回数が少ない
  • 装置が取り外しできる
  • 虫歯や歯周病のリスクが低い

マウスピースは、他の装置に比べて目立たないという特徴があります。頻繁に人前に出る方には特におすすめです。 マウスピースは取り外しが可能なため、食事や歯磨きの際の不便さが少なく、虫歯や歯周病のリスクも低減します。

また、ワイヤー矯正と比較して通院回数が少ないというメリットもあります。

<デメリット>

  • 症例に限りがある
  • 装置の取り外しができるので個人での管理が難しい
  • 装置を1日20時間以上つける必要がある

基本的に、装置は1日20時間以上の装着が求められます。そして、装置を取り外した際には、なくしたり壊したりしないよう自己管理が必要です。

また、歯の位置を大幅に調整する必要がある場合は、マウスピースを用いた部分矯正だけでは対応が難しくなることも考えられます。


費用 治療期間
部分矯正でかかる費用は10〜60万円程度
*通院時にかかる費用は別途(医院によって変わります)
数ヶ月〜2年
*個人差があります

2.ワイヤーによる部分矯正

歯に直接装置とワイヤーをつけて歯並びを矯正する治療方法です。

<メリット>

  • どのような症例にでも対応ができる
  • 装置の取り外しがない
  • 細やかな調整が可能

マウスピースは、自分で取り外せることによる手間が伴います。一方、ワイヤー矯正は、常に装置を付けたままになるので着脱の管理をする必要がありません。これにより、日常生活を送る中での不便やストレスを大きく軽減することができます。

また、この方法は非常に細やかな調整が可能です。歯や口腔内の様々な状態に柔軟に対応できることは、この治療方法の最も魅力的なメリットと言えるでしょう。

<デメリット>

  • 装置が目立つ
  • 金属アレルギーが生じるかもしれない
  • 虫歯や歯周病のリスク
  • 痛み
  • 通院回数

装置は直接歯に固定するため、唇や粘膜への刺激や、痛みを感じることがあります。金属製で目立つうえに、一部の方には金属アレルギーのリスクも考えられます。

また、装置を取り外せないので歯磨きが難しく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。マウスピースと比較すると、通院回数が増える点も考慮する必要があります。


費用 治療期間
部分矯正でかかる費用は40〜80万円程度
*通院時にかかる費用は別途(医院によって変わります)
数ヶ月〜2年
*個人差があります

3.セラミック矯正

セラミック矯正は、マウスピース矯正やワイヤー矯正とは異なり、装置を使って歯を動かしません。ご自身の歯を削り、被せ物をして見た目を改善する方法です。

<メリット>

  • 短期間での治療が可能
  • 見た目や色、形なども改善できる

歯を動かさないため短期間での治療が可能です。歯の形や色あいの改善も行えます。被せ物に使用するセラミックは、自然な見た目を実現できるだけではなく変色しないため、違和感なく長期間使用していただけるでしょう。

<デメリット>

  • 健康な歯を削る必要性がある
  • 歯の位置はあまり変わらない

短期間での治療が可能なセラミック矯正ですが、被せ物をするためには健康な歯を削らなければいけません。歯を削ると、しみるようになったり、神経を取る治療が必要になったりすることも考えられます。

また、セラミック矯正は、歯を動かすタイプの矯正と異なり歯の位置は変わりません。そのため、マウスピースやワイヤー矯正のように大きな見た目の変化は期待しにくいかもしれません。


費用 治療期間
セラミック矯正は被せ物をする歯一本に対して10〜15万円程度
*被せ物の費用は医院によって異なります
1週間〜1ヶ月
*個人差があります

部分矯正と全体矯正の違い

部分矯正は、前歯や数本の歯など気になる部分だけを動かす治療法です。比較的軽度な歯並びの乱れに適しており、治療費を抑えやすく、期間も数ヶ月〜2年ほどと短めです。
一方、全体矯正は歯列全体を整えるため、噛み合わせの改善や長期的な安定性に優れています。治療には2〜3年程度かかる場合が多く、費用も部分矯正より高額になります。
見た目の改善だけでなく、将来的な噛み合わせや歯の健康を重視するなら全体矯正、目立つ前歯だけを早く整えたいなら部分矯正と、目的に応じた選択が大切です。

関連記事: 実は難しい? 部分矯正

部分矯正NGなケース3選

1. 噛み合わせ全体に影響がある場合

前歯1本だけを動かすと、上下の噛み合わせに不調和が生じるケースがあります。特に奥歯の位置や高さに影響が及ぶと、部分矯正だけでは対応できません。

2. 歯列全体に凸凹がある場合

前歯のズレが目立っていても、実際には奥歯を含めた歯並び全体が乱れていることがあります。この場合、部分的に動かしても仕上がりに限界があるため、全体矯正での対応が必要です。

3. 顎の大きさや位置の不調和がある場合

顎の骨格そのものに問題があるケースでは、部分矯正だけで前歯を整えても根本的な改善にはつながりません。全体矯正で噛み合わせ全体を調整する必要があります。

「前歯1本だけ矯正」のよくある質問

Q1. 治療を早めることはできる?
A. 可能な範囲はありますが、安全に歯を動かす速度は限られます。無理なスピード矯正は歯根吸収・歯肉退縮のリスクを高めるため、期間短縮は「動かす量を最小化」「補助処置で効率化」など診断に基づく範囲内で行います。短期仕上げ重視ならセラミックも選択肢ですが、歯を削るデメリットは必ずご理解ください。

Q2. 部分矯正をしたら、噛み合わせが悪くなった。どうすればいい?
A. 前歯1本の位置を整えると、上下の当たり方が微妙に変化することがあります。軽度なら仕上げ調整や保定設計で改善可能ですが、原因次第では奥歯の軽い調整や全体矯正の再計画が必要なことも。違和感を感じたら早めにご相談ください。

Q3. 費用を抑えるコツは?
A. 動かす範囲が小さいほど部分矯正で対応しやすく、費用を抑えられる傾向にあります。とはいえ、無理な適応は仕上がりや噛み合わせに影響します。診断に基づく最小限の治療計画が結果的にコスト面でも有利です。医療費控除やデンタルローンも活用してみるのも1つの手です。

Q4. セラミックと矯正、どちらが良い?
A. 「短期・色形も同時に整えたい」ならセラミック、「歯を削りたくない・噛み合わせも配慮」なら矯正が基本方針。ご希望と歯の状態を踏まえ、メリット・デメリットを比較して決めましょう。

Q5. 前の上の1本だけが異常に突出しています。部分矯正できますか?
A. 前歯1本だけが大きく飛び出している場合、部分矯正では十分に改善できないケースが多くあります。周囲の歯や噛み合わせ全体を考慮せずに前歯だけを引っ込めると、バランスが崩れる可能性があるからです。
突出の度合いが軽度であれば部分矯正で対応可能ですが、重度の出っ歯の場合は全体矯正が必要となることが多いため、診断を受けたうえで適切な治療法を選ぶことが大切です。

無料相談はこちらから

気になる症状があればお気軽にご相談ください

いかがでしたか?部分的な矯正治療を検討するにあたって、今回お伝えさせていただいた内容は参考になったでしょうか?矯正治療は確かに時間と費用がかかりますが、理想的な歯並びを手に入れることができます。その価値を考えると、気になる箇所だけの治療を希望する方が多いのも肯けます。

治療方法は様々ですので、自分に最適なものを見つけることが大切です。当医院では無料カウンセリングを行っております。 どんなに小さなことでもかまいません。何か質問や不安があれば、お気軽にご相談ください。

当院の矯正無料相談では矯正治療に関するあらゆるご相談にお答えしております。

当院ではしっかりと問診した上で治療計画を立て、丁寧な事前説明を行うように心がけていますのでリラックスしてお越しください。

また、来院診察以外にも無料メール相談からもご相談いただくことが可能です。

お気軽にお問い合わせいただき、まずはご希望をお聞かせ下さい。

それではあなたからのご相談をお待ちしております。

関連記事:
インビザライン矯正とは?

無料カウンセリング予約


監修者:増岡尚哉

歯科医師・歯学博士(D.D.S. , Ph.D.)|マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)の講師として歯科医師向けに講義・講演活動をしています。

プロフィールはこちら

この記事をシェアする

関連した記事

関連した記事はありません。

歯列矯正の基礎知識コラムトップ

その他の記事を見る




【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。

PAGE
TOP