矯正治療を考えるうえで「抜歯矯正か非抜歯矯正か」は重要なポイントでしょう。しかし、それ以上に重要なのは「矯正治療方法がご自身に合っているかどうか」です。

自分の歯を1本も失いたくないあまり、無理して非抜歯矯正を受けてしまうと、歯並びが悪化することがあります。お口の状態によって、抜歯矯正が合うか非抜歯矯正が合うかは変わるため、必ずしも非抜歯矯正が良いわけではありません。抜歯矯正でも非抜歯矯正でも、自分に合った矯正治療方法を見つけることが非常に大切です。

今回は「非抜歯矯正治療におけるリスク」「非抜歯矯正の適用症例・抜歯矯正の適用症例」「納得して矯正治療を受けるために知っておくべきポイント」について解説いたします。

【目次】
1.非抜歯矯正治療におけるリスク
 1-1 口元が前方に出る
 1-2 後戻りが起きやすい
 1-3 咬み合わせのバランスが悪くなる
 1-4 適用症例に当てはまらないことがある
 1-5 治療期間が長引きやすい
2.非抜歯矯正が適用される症例
3.抜歯矯正が適用される症例
4.非抜歯矯正で用いられる治療方法
 4-1 ①側方拡大で歯列のアーチを横側に拡大
 4-2 ②前方拡大で前歯を前方向に移動させる
 4-3 ③遠心移動で歯を後方に動かす
 4-4 ④歯の側面を削る(IPR:Interproximal Reduction)
5.納得して矯正治療を受けるために知っておくべきポイント
 5-1 適用可能な矯正治療方法を複数提案されたか
 5-2 矯正治療方法のメリットとリスク両方について説明があったか
 5-3 認定医や専門医の在籍や非抜歯矯正の症例実績を公開しているか
 5-4 矯正治療のための設備が整っているか
6.当院では適用可能な矯正治療方法を複数ご提案します!

非抜歯矯正治療におけるリスク

非抜歯矯正は、抜歯をせずに矯正治療が可能な点で患者さんの精神的な負担を軽減できます。
しかし、歯を移動するスペースが十分に確保できる状態でないと、歯並びが悪化するリスクを伴います。そのリスクについて解説いたします。

口元が前方に出る

歯をキレイに並べようとしても、歯が移動できるスペースが十分に確保されていないと、歯が前方に押しだされるように動いてしまいます。そうすると、矯正治療を行う前よりも前歯が前方に出て、出っ歯や口ゴボになってしまうことがあります。

後戻りが起きやすい

もともと、矯正治療で移動させた歯には、元の位置に戻ろうとする性質があります。これはどの症例でも起こり得ることなので、矯正治療完了後には後戻りを防ぐため保定装置(リテーナー)を使用します。

歯を移動するスペースが十分に確保されていない状態で無理に非抜歯矯正を行った場合、さらに後戻りのリスクが高まりやすく、保定装置を使用する期間が長期化することがあります。

咬み合わせのバランスが悪くなる

無理な非抜歯矯正では、スペース確保のため歯並びのアーチを限界ギリギリまで広げます。そうすると、歯並びは改善されても、上下のバランスがズレて咬み合わせが悪くなってしまうことがあります。

矯正治療では、歯並びだけでなく、咬み合わせを改善することも大切な治療目的としています。見た目だけ改善しても咬み合わせが正しくないと、顎関節に負担が生じ顎関節症になったり、過剰な力が歯にかかることで歯が欠けたり、すり減りが早まったりすることがあるため注意が必要です。

適用症例に当てはまらないことがある

非抜歯矯正は、歯を移動させる範囲が大きい場合は適用できません。そのため、重度の叢生や出っ歯、受け口などは適用できないことがあります。非抜歯矯正は比較的軽度な症例に適用されます。

治療期間が長引きやすい

無理に抜歯矯正を行おうとすると、スペースの確保が難しいため、計画通りに治療が進まず治療期間が長引いてしまうことがあります。

非抜歯矯正が適用される症例

非抜歯矯正は、歯列の幅や顎の大きさに、歯を移動させるスペースが確保できる余裕があれば適用可能です。

◆軽度~中等度の歯並び
歯と歯の重なりや歯の傾斜が軽度な場合は、歯列のアーチを拡大したり歯の傾きを改善することで歯並びを整えることができます。

◆顎に歯を移動させるスペースがある
一番奥歯のさらに後方に歯を移動するスペースがある場合に適用できます。

◆歯と顎の大きさが調和している
顎に対して歯が大きいと、歯を移動させるスペースが十分に確保できないため、歯と顎の大きさのバランスが良いことが重要な条件です。

◆口元が出ていない
非抜歯矯正で歯列のアーチを横側に拡大する場合、若干歯が外側に傾斜します。そのため、元から口元が出ていたり出っ歯になっていたりすると、さらに悪化します。非抜歯矯正においては、口元が出ていない、出っ歯でないことも重要です。

◆抜歯を希望されない方
適応症例かどうか精密検査で診断して、適用できそうなら非抜歯矯正治療が可能です。

抜歯矯正が適用される症例

基本的に、抜歯矯正で抜歯の対象となるのは、第一小臼歯です。
第一小臼歯1本の幅は7~8mm(左右合わせて2本分では14~16mm)で、歯を動かすためのスペースを確保する方法の中で、最も大きくスペースを作ることができます。そのため、歯を大きく動かす必要のある症例で適用されます。

◆重度の歯並びの方
非抜歯矯正による歯列の拡大だけでは、歯を大きく動かせるだけのスペース確保が難しいため、抜歯矯正を適用します。

◆顎の大きさに対して歯が大きい
顎の大きさに対して歯が大きいと、歯が生えるスペースが足りないことで、歯と歯が大きく重なったり、傾いたりすることがあるため、抜歯矯正が適用されます。

◆口元が出ている
非抜歯矯正の場合、移動するスペースが十分に確保されていないと、歯が前方に押されながら移動します。そのため、口元の突出がさらに目立ちやすくなりますが、抜歯矯正を行えば口元の突出も改善することができます。

◆前歯が前方に傾いている
非抜歯矯正で歯列のアーチを横側に拡大する場合、若干歯が傾斜します。そのため、もともと前歯が傾斜している方が非抜歯矯正をすると、前歯の傾きが悪化してしまいます。このような症例では、抜歯矯正を適用します。

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非抜歯矯正で用いられる治療方法

非抜歯矯正では、抜歯以外の方法で歯を移動するスペースを確保する必要があります。非抜歯矯正で用いられる治療方法を4つご紹介します。

①側方拡大で歯列のアーチを横側に拡大

歯列のアーチが狭い場合に適用する方法です。上顎に装置(拡大床)を装着し、歯の裏側から矯正力をかけて歯列のアーチを横側に広げます。そして、アーチが広がったのを確認してから、ワイヤー矯正あるいはマウスピース矯正で歯を正しい位置に移動させます。
床矯正装置の使用は成長期のお子さんに使用すると効果が出やすいですが、大人の方でも使用できるケースがあります。

②前方拡大で前歯を前方向に移動させる

前歯が内側に傾斜している症例に適用します。前歯を前方向にわずかに傾けて移動させることによってスペースを確保します。

③遠心移動で歯を後方に動かす

歯列の一番奥の歯のさらに奥に、歯を移動するスペースがある場合に適用します。一番奥の歯から順に歯を後方へ移動させてスペースを確保します(親知らずがある場合は、親知らずを抜歯することでスペースを確保することができます)。

④歯の側面を削る(IPR:Interproximal Reduction)

歯の側面を削ってスペースを確保する方法です。歯へのダメージを最小限にするために、歯の表面を覆うエナメル質のみを削ります。
エナメル質の厚みは2~3㎜で、削ることができるのは、そのうち0.25㎜までと決められています。1本の歯の両側面で最大約0.5㎜、前歯6本分行えば約3㎜のスペースの確保が可能です。
削るといっても、歯科専用のヤスリで側面をこする程度で、歯の健康面には問題ないためご安心ください。

納得して矯正治療を受けるために知っておくべきポイント

矯正治療は基本的に2~3年かかります。もし、非抜歯矯正が納得できない結果になると、再治療も数年かかる可能性があります。そのようなことが起こらないように、歯科医院選びのチェックポイントを事前に確認しておきましょう。

適用可能な矯正治療方法を複数提案されたか

矯正治療を希望して診察を受けられた際に、限られた治療方法しか説明されなかった経験はありませんか?

矯正治療は治療完了までに長期間かかるため、歯並びや咬み合わせなどはもちろん、その方のライフスタイルも考慮した治療方法の選択や治療計画が大切です。そのため、歯科医院選びの際は、治療方法をいくつか提案してくれる医院を選ぶことをおすすめします。

非抜歯と抜歯、それぞれの矯正治療のパターンや、使用する装置の種類、治療期間、費用などを、精密検査の診断を元にわかりやすく説明してくれる医院であれば、後悔のない矯正治療を受けることができるでしょう。

矯正治療方法のメリットとリスク両方について説明があったか

歯科医師が矯正治療の選択肢とあわせて、それぞれのメリットやリスクなどについて丁寧な説明をしてくれることも大切です。
また、ご自身が納得して治療を受けられるように、気になることがあれば歯科医師に質問してみましょう。専門的な内容でも、患者さんが納得できるまで咬み砕いて説明してくれるような歯科医師であれば、信頼して矯正治療を受けることができるでしょう。

関連記事:抜歯にするか非抜歯にするか迷っています・・・

認定医や専門医の在籍や非抜歯矯正の症例実績を公開しているか

矯正治療は、歯科医師の国家資格を持っていれば行うことができます。その中でも矯正治療に関する専門的な知識や技術を有しているのが、矯正専門医や矯正認定医として日本歯科矯正学会で認められた歯科医師です。
これらの資格は、矯正認定医は5年以上の矯正治療専門の研修や学術活動、矯正専門医は矯正認定医の資格を得て、さらに症例審査と筆記試験の合格が必要です。
歯科医院のホームページなどで、専門医や認定医が在籍しているか確認してみましょう。
また、非抜歯矯正で行った実際の治療症例も確認してみると治療実績についても把握できます。

矯正治療のための設備が整っているか

矯正治療のための設備が整っていることも重要なポイントです。特に「レントゲン」「歯科用CT」「セファログラム」「3Dスキャナー」の設備があるか事前に確認しておきましょう。これらの設備があると、精密検査の精度が高まります。

  • レントゲン:歯の傾き、顎骨の厚み、過剰歯、親知らずなどの状態を確認することができます。抜歯・非抜歯の診断にも使用します。
  • 歯科用CT:歯槽骨の厚みを診て歯をどの程度移動できるか確認し、歯列のアーチをどこまで拡大できるか診断します。
  • セファログラム:上下の顎の位置関係を確認し、歯の角度、口元の突出具合などを確認できます。
  • 3Dスキャナー:従来の型採りが必要なく、口腔用カメラでお口の状態を読み取ることで、その場でコンピューターにデータを送ることができます。患者さんの負担が軽減されやすいです。

当院では適用可能な矯正治療方法を複数ご提案します!

非抜歯矯正は、「自分の歯を残すことができる」「抜歯の恐怖心がない」など人気の矯正治療方法です。しかし、患者さんが希望するからと言って無理に非抜歯矯正を行うと、口元の突出感が目立ったり、後戻りしやすくなるなどのリスクを伴ってしまいます。

矯正治療では「抜歯か非抜歯か」も大事ですが、なによりも優先したいのは「治療がご自身のお口の状態に合っているか」です。
矯正治療方法を提案された際には、精密検査の結果をもとに「なぜその治療法が自分に最適なのか」をしっかり質問・確認しましょう。納得感を持って治療を進めるための大切なポイントです。

当院では、適用可能な矯正治療方法を複数をお伝えし、それぞれのメリットやリスクはもちろん、費用、治療期間などの詳細についてもお伝えしています。
気になることがあれば、なんでもご質問ください。矯正治療を考えられている患者さんが安心して治療を受けていただけるよう、スタッフ一同、丁寧な対応を心がけております。矯正相談の際は、ぜひ当院へご来院ください。

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監修者:増岡尚哉

歯科医師・歯学博士(D.D.S. , Ph.D.)|マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)の講師として歯科医師向けに講義・講演活動をしています。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。

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