「虫歯の治療で神経を抜いたけれど、矯正はできるの?」
「神経のない歯を動かすのは危険?」

そんな疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
神経(歯髄)を抜いた歯は確かに通常の歯とは異なりますが、 正しい診断と治療計画があれば矯正は十分可能です。
この記事では、 「神経を抜く治療とは何か」から「神経を抜いた歯を矯正する際の注意点」まで、矯正専門医が分かりやすく解説します。

【目次】
1.「歯の神経を抜く」ってどんな治療?
 1-1 神経を抜く治療の流れ
 1-2 歯の神経を抜いた後はどうなる?
2.神経を抜いた歯でも矯正はできる?
 2-1 抜歯を検討するケースもある
 2-2 神経を抜いた歯を矯正するときの注意点
3.「神経がないと歯は動かないのでは?」という誤解
 3-1 神経を抜いた歯でも矯正は可能。事前診断が大切
4.よくある質問(Q&A)

「歯の神経を抜く」ってどんな治療?


歯の神経は「歯髄(しずい)」と呼ばれる組織で、歯の中心部にあり、血管や神経が通っています。
この神経があることで、歯は栄養を受け取り、 「冷たい」「熱い」といった刺激を感じ取ることができます。
ところが、虫歯が進行し、細菌が歯髄に達してしまうと炎症が起こります。
この状態を「歯髄炎」といい、以下の2つのタイプに分かれます。


分類 特徴 治療法
可逆性歯髄炎 軽度の炎症。刺激を取り除けば回復の余地がある 神経を残す治療が可能
不可逆性歯髄炎 神経が壊死・感染しており再生できない状態 神経を取り除く(根管治療)が必要

とくに「ズキズキと痛みが強い」「夜も眠れない」などの症状がある場合は、 不可逆性歯髄炎である可能性が高く、神経を抜く治療が行われます。

神経を抜く治療の流れ

  1. 感染した歯髄を取り除く
  2. 内部を洗浄・消毒
  3. 空洞になった根管に薬を詰める
  4. 必要に応じて被せ物で補強する

この一連の処置を「根管治療」と呼びます。

歯の神経を抜いた後はどうなる?

神経を抜いた歯は、痛みを感じにくくなる一方で、 次のような変化やリスクがあります。

【変化とメリット】
◆虫歯や熱・冷たさによる痛みがなくなる
◆炎症の進行を止めることができる

【注意すべきリスク】
◆歯が変色することがある
◆再び虫歯になっても気づきにくい
◆歯がもろくなり、寿命が短くなる場合がある
◆神経の先端に膿がたまると再び痛みを感じることも

つまり、「痛みがなくなる=安心」ではなく、 神経を抜いた歯こそ丁寧なケアと定期的なチェックが必要です。

神経を抜いた歯でも矯正はできる?

神経を抜いた歯であっても、歯の周囲にある歯根膜(しこんまく)が健康であれば、歯列矯正を行うことは可能です。
ただし、いくつかの注意点があります。

【矯正できるケース】
◎根管治療が完了している
◎根尖(歯の根の先)に膿や炎症がない
◎歯根膜と骨の状態が健康
◎被せ物(クラウン)がしっかりしている

【注意が必要なケース】
●根が短い(歯根吸収)
●根の先に影(感染)がある
●被せ物やブリッジが隣の歯と連結している
●矯正時の力が強すぎる

神経を抜いた歯がブリッジなどで周囲の歯と一体化している場合、 歯を動かすために一度被せ物を外したり、矯正後に新しく被せ直しを行う必要があるケースもあります。

抜歯を検討するケースもある

神経を抜いた歯は、虫歯や歯周病のリスクが高く、 場合によっては、矯正を始める前に抜歯を検討する方がよい場合もあります。
その際は、

◆抜歯を選択するメリット・デメリット
◆治療期間や噛み合わせへの影響


を事前に十分話し合い、最適な治療方針を一緒に決めていきます。
矯正前のカウンセリングで、抜歯の必要性や影響をしっかり確認しましょう。

神経を抜いた歯を矯正するときの注意点

1、弱い力でゆっくり動かす
神経のない歯は反応が遅いため、ゆっくり動かすことで安全に進めます。

2、歯根吸収のモニタリング
定期的にレントゲンやCTを撮影し、歯根の状態を確認します。

3、被せ物の調整・再製作
矯正による歯の位置変化で、既存の被せ物が合わなくなることがあるため、治療後に新しく作り直す場合もあります。

4、噛み合わせ全体を考慮する
神経のない歯に過度な力が集中しないよう、全体のバランスを見ながら力をコントロールします。

「神経がないと歯は動かないのでは?」という誤解

歯が動くのは、神経の働きではなく、歯根膜と骨のリモデリング(再生吸収)によるものです。
そのため、神経がなくても歯は矯正で動きます。

ただし、神経を抜いた歯は感覚が鈍いため、 負担がかかっても痛みを感じにくく、無理な力が加わるリスクがあります。 矯正医による慎重な管理が欠かせません。

神経を抜いた歯でも矯正は可能。事前診断が大切


神経を抜いた歯でも、歯根膜と歯槽骨が健康であれば、矯正は問題なく行えます。
ただし、

・ブリッジなどの被せ物をしている場合は一度外す必要があることもある
・神経を抜いた歯は再感染リスクがあるため、状態確認が重要
・抜歯を検討する場合はメリット・デメリットを十分話し合う


こうした点を踏まえ、矯正前の診断を丁寧に行うことが成功の鍵です。
当院では、CTや3Dスキャンによる精密な診査を行い、神経を抜いた歯を含むケースでも、安全で効果的な矯正治療をご提案しています。

「神経を抜いた歯があるけど矯正できる?」と悩んでいる方へ。
まずは状態を正確に把握し、最適なプランを一緒に考えましょう。

無料相談はこちらから

よくある質問(Q&A)

Q1. 神経を抜いた歯でも矯正期間は変わりますか?
A1. やや遅くなる場合もありますが、全体の計画を調整することで大きな差はありません。

Q2. 神経を抜いた歯がブリッジになっています。矯正できますか?
A2. ブリッジ部分を一時的に外し、矯正後に再製作することで対応可能な場合があります。

Q3. 神経を抜いた歯が黒ずんでいます。矯正後に白くできますか?
A3. はい。歯の内部漂白(ウォーキングブリーチ)や被せ直しで改善できます。

Q4. 神経を抜いた歯は将来的に抜けやすくなりますか?
A4. 適切な噛み合わせと定期的なケアを続ければ、長く維持できます。矯正後のメンテナンスが重要です。


監修者:増岡尚哉

歯科医師・歯学博士(D.D.S. , Ph.D.)|マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)の講師として歯科医師向けに講義・講演活動をしています。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。

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