COLUMN

歯列矯正の基礎知識コラム

【監修:歯科医師・矯正指導医 増岡尚哉】



目立たないマウスピース矯正「インビザライン」。長時間器具を装着するため、虫歯になりやすいのでは?と不安になる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

また、「せっかくインビザライン矯正を始めようとしたら虫歯が見つかった」「矯正中に虫歯になってしまった」という方もよく聞きます。

本記事では、インビザラインは虫歯になりやすいのか、また矯正前・矯正中に虫歯が見つかった場合の対処法と、矯正中に虫歯にさせないための予防法をご紹介します。

【目次】
1、インビザラインは虫歯になりやすい?
2、矯正前に虫歯が見つかってしまったら?
2、矯正中に虫歯ならないための対処法
3、もし矯正中に虫歯になってしまったら?
5、リテーナー装着時に虫歯になってしまったら?
6、虫歯について疑問があるなら歯科医に相談を

インビザラインは虫歯になりやすい?

マウスピース矯正では、マウスピースを長時間装着することで、唾液が歯の表面に行き渡りにくくなります。

それによって、歯についた汚れを洗い流してくれる「自浄効果」が薄れる、といったことが考えられます。

ただし、だからといってすぐに虫歯になるわけではありません。こういった注意点があることを理解して、いつもより水分補給を心がけたり、食後の歯磨きやマウスピースのお手入れを丁寧にすることで虫歯リスクはコントロールすることができます。

一番良くないのは、虫歯になりやすい状況のまま放置してしまうことです。

インビザラインは自分で装置を取り外せるので、外してしまえばいつもと同じようにお口の中のケアを行うことができるのです。

これに対してワイヤー矯正では、歯の表面に装置を接着・固定します。そのため、

  • 装置の隙間に物が挟まる
  • 装置が邪魔で歯磨きがしにくい

など、固定式のためにブラッシングやお手入れが複雑になり、結果的にお口の中が虫歯になりやすくなる可能性があります。

毎日毎日、歯間ブラシやフロス、丁寧な歯磨きまで完璧にお手入れができれば良いのですが、忙しくなかなかできない日もあることでしょう。

そんなときでも、インビザラインであればお手入れの負担が少なく、虫歯が心配な方にもお勧めできる治療方法といえます。

矯正前に虫歯が見つかってしまったら?



インビザラインで矯正治療を始める前に、まずは虫歯がないかチェックします。これはワイヤーなど他の矯正治療でも同じであり、もしこの時点で虫歯が見つかれば、虫歯の進行度合によって、以下の対応を行います。

1.初期虫歯「C0」~「C2」

虫歯によって穴があいていない「C0」の場合は、そのまま矯正を開始することもあります。

穴が開いている場合でも、虫歯が神経にまで達していない「C1」~「C2」程度の虫歯であれば、歯の表面を削り被せものをする程度なので、1日~1週間程度で治療がすむ場合が多いです。

この場合、虫歯治療を終えてから、矯正を開始します。

2.神経にまで虫歯が達している「C3」~「C4」

虫歯が神経まで達している「C3」「C4」の場合も、虫歯を治療した上での矯正開始となることが多いです。

この場合の虫歯治療は、歯を深く削ってかぶせ物を付けたり、場合によっては抜歯した上で、歯を補う治療が必要になるため、数週間~数ヶ月治療期間がかかることもあります。

注意点としては、矯正前に虫歯治療を行ったとしても、矯正治療後にはかみ合わせの状態が大きく変わることもあるため、その場合には再治療・再調整が必要になる可能性もあります。

インビザラインの矯正期間は1~2年程度。「やっと治療が終わったのに、また再治療!?」ということにならないように、どのような順番で治療を進めていけばよいのか、相談してみるとよいでしょう。

関連記事:虫歯があっても歯列矯正はできる?矯正中に虫歯になったらどうなる?

矯正中に虫歯にならないための対処法

矯正治療中に虫歯になった場合、矯正治療を一時中断して虫歯治療を優先する場合があります。またインビザラインでは、虫歯を削った後の歯型に合わせてマウスピースを再作成することもあるため、矯正をスムーズに進めるためには、虫歯にならないように日頃から意識することがとても大切です。

矯正治療中に行える虫歯の予防方法をいくつかご紹介していきます。

しっかりと歯磨きをする

矯正治療をしているかどうかに関わらず、虫歯予防にとって重要なのはやはり歯磨きです。ただ磨くだけではなく、少しポイントを押さえるだけで得られる効果はだいぶ変わります。

●使用する歯磨き粉は「フッ素入り」のものを選びましょう
虫歯は、脱灰(口の中に残った食べカスが原因で発生した歯垢が酸を作り出し、その酸が歯の表面のリンやカルシウムを溶かすこと)から始まります。脱灰した状態を長期間放置すると虫歯は進行してしまうのですが、これを元に戻すことができれば虫歯にはなりません。この元に戻すこと(唾液中のリンやカルシウムが歯の表面に戻ること)を再石灰化と言います。

実はお口の中では、常にこの脱灰と再石灰化が繰り返されています。うまくバランスが取れていれば問題ありませんが、脱灰の方が優位になってしまうと虫歯が進行してしまう、というわけです。

そうならないようにするために重要なのが「フッ素」です。フッ素には再石灰化を促進する効果があり、虫歯の予防に繋がりますので日頃の歯磨きに取り入れられることをお勧めいたします。

今は高濃度のフッ素が含まれている歯磨き剤が市販されていますので、歯科医院などでわざわざ注文する必要もありません。ただし、六歳未満のお子様の場合は誤飲を考慮して濃度1000ppm以下のものを選んだ方が良い為、ご心配な方は歯科医師や歯科衛生士にご相談ください。

●歯ブラシ以外の清掃器具を活用しましょう
歯磨きの際に、歯ブラシと合わせて「フロス」と「歯間ブラシ」を使用されることをお勧めいたします。

フロスも歯間ブラシも歯と歯の間を清掃するための器具で、普通の歯ブラシだけでは落とせない汚れを落とすことができます。

しかしただ使えば良いわけではありません。たとえば、歯間ブラシは歯に対して垂直に入れて汚れをかき出すように動かす、フロスは歯間ブラシが入らない場所に使用して歯の表面に擦り付けるように動かす、など、簡単なことですが知っているだけで得られる効果は格段に違います。

せっかく使用するなら最大限の効果が得られるようにしたいですよね。そのためにも、まずは歯科医院にご相談ください。フロスと歯間ブラシどちらを使えば良いのか、適切なサイズ、正しい使い方など、あなたのお口に合った方法をお話させていただきます。

飲食時はインビザラインを外す

マウスピースをはめて生活する上で注意が必要なのが、飲食時です。
特に飲み物を飲む場合は、マウスピースのことなど気にせず飲んでしまう方が多く見受けられます。

しかし、マウスピースをはめたまま飲み物を飲むと、歯とマウスピースの間に水分が入り込むことになり、それがスポーツ飲料などの甘い飲み物なら砂糖水の中に歯を浸けているようなもの。長時間そのままでいると、お口の中を虫歯になりやすい危険な状態に晒していることになります。
取り外すことを面倒だと思ってしまいがちですが、日々のちょっとした積み重ねによって虫歯は防ぐことができます。飲み物を飲む時にはマウスピースを外すという習慣をつけましょう。

マウスピースをしっかりと洗浄する

毎日気持ち良く使用するためにも、一日の終わりにはマウスピースをしっかりと洗浄してください。

指や手で優しくこすり、もし汚れが気になる場合は柔らかめの歯ブラシやスポンジなどを使用しましょう。週に一度、専用の洗浄剤を使ってつけ置き洗いをするとより効果的です。

歯磨き粉は含まれている研磨剤で傷がついてしまう恐れがあるため使用しないようにしてください。また、お湯を使用すると変形してしまうかもしれないので、水で洗うようにしましょう。

こまめに水分補給をする

マウスピースを装着していると、普段よりもお口の中が乾燥しやすいです。

虫歯菌は乾燥を好むため、こまめに水分補給をして口の中を乾燥させないようにすることも虫歯予防に繋がります。水分補給をする時は、なるべく糖分が入っていないものを選ぶようにしましょう。

無料相談はこちらから

もし矯正中に虫歯になってしまったら?

どんなに気をつけていても虫歯になってしまうこともあります。ここからは、矯正治療中に虫歯が見つかった時のことをお話していきます。

マウスピースは取り外し可能ですので、矯正治療中でも虫歯の治療自体は行うことができます。しかし、すべての虫歯がすぐに完治できるわけではありません。

虫歯は治療をするのに歯を削る必要があります。削った部分には何らかの方法で詰め物をします。そうすると、虫歯の大きさによっては元の歯と形が変わり、作成済みのマウスピースがはまらなくなってしまうかもしれないのです。

そのため、虫歯の大きさや場所によって以下のような対応をします。

  • 矯正治療と並行して虫歯治療を行なう
  • 応急処置だけを行い、矯正治療後に虫歯の治療を行なう
  • 矯正治療を中断して虫歯を完治させた後に矯正治療を再開する

次の章で詳しく見ていきます。

1.矯正治療と並行して虫歯治療を行なう

矯正で歯を移動することにより、接近した歯と歯の間に虫歯が見つかる場合もあります。

この場合は、矯正と同時に虫歯治療を進めることができます。まずは矯正による遠心移動で、虫歯のある歯と歯の間に隙間をあけてから虫歯の治療を行います。

また、初期虫歯で、その虫歯治療がかみ合わせに大きな影響を与えない場合にも、矯正と虫歯治療を同時に進めていきます。

いずれの場合も、虫歯治療と矯正を同時に行うため、予定の治療期間を大きく超えることなく矯正治療を完了できます。

応急処置だけを行い、矯正治療後に虫歯の治療を行なう

矯正治療が終わりに近づいたときに初期虫歯が見つかれば、矯正治療を中断せず、応急処置がとられます。

応急措置とは、フッ素塗布やセメント封鎖など、一時的に虫歯の進行を遅らせる処置のことです。

あくまで一時的であるため、矯正終了後にしっかりと虫歯の治療を行う必要があります。

矯正治療を中断して虫歯を完治させた後に矯正再開

すでに虫歯が歯の神経にまで到達したC3以上の虫歯の場合は、強い痛みを生じることが考えられます。そのような場合には一旦矯正を中断し、虫歯治療を優先させます。

この場合、歯を削ったり、抜歯した後に被せ物等で補綴治療を行うため、歯の形状が大きく変わってきます。以前の歯の形状をもとにして作成したマウスピースでは、歯のかみ合わせに悪影響をもたらしかねないため、マウスピースの再調整・再作成が必要となってきます。

また、補綴治療の内容によっては数週間~数ヶ月の間マウスピースが装着できない可能性もあります。マウスピースが装着できないことで、歯の後戻りが起こり、治療計画を再度修正せねばならないことになってしまうため、矯正期間中は、日頃から歯の状態をこまめにチェックしていただくことと、数ヶ月に一回は定期健診やクリーニングでお口全体のチェックをしていただくことを強くお勧めしています。

リテーナー装着時に虫歯になってしまったら?

歯を動かす治療が終了したら、歯が元の位置に戻るのを防ぐために「リテーナー」という装置を使用して後戻りを防止します。歯の位置を定着させるためにはこの「保定期間」の過ごし方が非常に重要です。

保定期間に虫歯が見つかった場合も、対応の仕方は矯正治療中と同じです。リテーナーをはめることに支障がなければすぐに完治させることができますし、支障が出そうなら応急処置やリテーナー再作成といった方法を取らなければいけないかもしれません。

そのため、保定期間に入っても、矯正治療中と同じように虫歯予防を心がけましょう。

虫歯について疑問があるなら歯科医に相談を

一番良くないのは、気になることを放置することです。虫歯に対する疑問、虫歯かもしれないという不安などを抱えたまま矯正治療を開始することだけは避けましょう。

当院では矯正治療開始前に無料カウンセリングを行なっておりますので、何か気になることがあるようでしたらお気軽にご相談ください。治療の必要性や矯正治療との兼ね合いなどを含め、ご不安が解消されるようにお話させていただきます。

オンライン診療やメールによる無料相談でも対応可能ですので、ご希望に合わせてご利用いただけたら幸いです。





【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。