出っ歯は、見た目以外にも、発音や咀嚼、口腔環境などお口の機能にも影響を及ぼします。特に日本人は骨格の関係から歯が並ぶアーチが狭いことで出っ歯になりやすい傾向があります。出っ歯は、矯正治療で改善することが可能で、その方法としてマウスピース矯正やワイヤー矯正などが挙げられます。

今回は出っ歯について「原因」や「影響」、「治療方法」などについてわかりやすく解説いたします。

【目次】
1.「出っ歯(上顎前突)」について
2.出っ歯の患者さんが抱える悩みと顔の印象
3.出っ歯を引き起こす「先天的な影響」と「後天的な影響」
 3-1 先天的な影響
 3-2 後天的な影響
4.出っ歯が及ぼす影響
 4-1 ①口の中の環境が悪化しやすい
 4-2 ②発音が難しく感じることがある
 4-3 ③口元にコンプレックスを感じる
 4-4 ④奥歯へ大きな負荷がかかる
 4-5 ⑤外傷により前歯のダメージを受けやすい
 4-6 ⑥咀嚼が偏ることで消化器官への負担に
5.出っ歯を改善するための矯正治療と外科治療について
 5-1 ①ワイヤー矯正
 5-2 ②マウスピース矯正
 5-3 ③外科手術
6.当院のインビザラインを使った出っ歯の治療例
 6-1 出っ歯の症例➀(8才 女性)
 6-2 出っ歯の症例②(23才 男性)
7.出っ歯の矯正治療はマウスピース矯正も可能です!

「出っ歯(上顎前突)」について

「出っ歯」は、専門用語では「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」と言います。奥歯を咬み合せたときに、上の前歯が下の前歯より前方に傾いている状態を表します。

咬み合わせが正常な状態だと、上の前歯が下の前歯を覆い、重なりが2~3mmくらいになるのに対して、出っ歯の場合は、その重なりが4mm以上とされています。重度の状態だと、7~8mm以上の状態になることもあります。

日本人は顎が比較的小さいため、歯が並ぶアーチが狭くなりやすいです。さらに、歯が顎のサイズに対して大きめという特徴もあり、これらが原因で永久歯が生えるスペースが狭くなり、出っ歯になりやすい傾向があります。

出っ歯のデメリットとしては、上の前歯が前方に傾いていることで唇が閉じにくくて口呼吸になりやすかったり、口元にコンプレックスを感じたりするといったことが挙げられます。
お子さんの場合は転倒や衝突によって前歯をぶつけやすく、歯の神経へダメージが及んだりや歯が折れてしまったりするなどのトラブルに繋がることもあります。

出っ歯の患者さんが抱える悩みと顔の印象

〇前歯でかじれない
前歯は食べ物をかじりとる役割を担っています。しかし、出っ歯は前歯が前方に傾いていることで食べ物をかじりとる動作が難しくなります。その分、奥歯で咬む必要があるため奥歯に負担がかかりやすくなり、歯の擦り減りが早く進んだり、歯が欠けたりすることがあります。

〇唇が開きやすい
上前歯が前方に傾いていることで、唇が前歯にひっかかって閉じにくく、口呼吸になりやすいです。口呼吸が習慣化すると、口の中が乾燥して唾液の循環が悪くなるため、虫歯や歯周病のリスクが高まります。

〇口元が膨らんだようにみえる
前歯が前方に傾いていると、口元がボコッと膨らんでいるように見えます。この状態を一般的に「口ゴボ」と呼び、口元にコンプレックスを感じてしまう方もいらっしゃいます。

〇真ん中の前歯が2本が出ている
前歯の真ん中に位置する歯を「中切歯」、その横2番目に位置する歯を「側切歯」と言います。日本人は、中切歯が側切歯に比べて大きい傾向があるため、出っ歯の状態だと上の前歯2本がより目立って見えることがあります。

出っ歯を引き起こす「先天的な影響」と「後天的な影響」

出っ歯の原因には、生まれもった性質である「先天的な影響」と、生まれた後に備わった性質である「後天的な影響」が関係します。
先天的な影響として、遺伝や顎の成長、後天的な影響として呼吸の仕方や舌の癖、生活習慣などが挙げられます。

先天的な影響

●遺伝
祖父母や両親の中に出っ歯の方がいると、出っ歯が遺伝する可能性があります。出っ歯がそのまま遺伝するのではなく、顎や歯などの大きさが遺伝することで、その孫や子供も出っ歯になりやすくなります。

●顎の成長
上顎と下顎の成長のバランスが悪いと出っ歯になることがあります。上顎の成長が下顎に比べて著しい場合、上顎が大きくなり出っ歯になりやすいです。上顎の成長に比べて下顎の成長が遅い場合も同様です。
顎の成長は、遺伝や舌の動き、食べ物などによって影響を受けます。

後天的な影響

●呼吸の仕方
正しい呼吸方法は鼻呼吸です。口呼吸が習慣になっていると、舌の位置が下がりやすく筋力も低下しやすいため、歯並びや咬み合わせに悪影響を及ぼします。鼻が詰まる症状が長期間続くような場合は、耳鼻科を受診し改善することで鼻呼吸を促しましょう。

●舌の癖
舌の位置や動きは歯並びや咬み合わせに影響します。
舌の正しい位置は、上の前歯裏側の歯茎付近に舌の先端が接触し、舌全体が上顎に吸着している状態です。しかし、舌の位置が下がっていると歯並びや咬み合わせが悪くなってしまうこともあります。特に、前歯を舌で押す癖などがあると、前歯を前方へ押し出す力が加わり続けることになります。また、指しゃぶりや爪噛みなどの癖も、前歯に余計な力が継続的にかかるため出っ歯になりやすいです。

●食生活
栄養摂取や食事の仕方も、歯並びや咬み合わせに影響します。
必要以上に長い期間、ほ乳瓶や母乳を吸っていると、口周りの筋肉が鍛えられず、咀嚼がなかなか身につかないことがあります。
口周りの筋肉や舌の正しい位置や動き、咀嚼力を身につけることで、歯並びや咬み合わせが整いやすいです。

出っ歯が及ぼす影響

出っ歯は、見た目や顔の印象、お口のトラブルや機能面に影響を及ぼすことがあります。

①口の中の環境が悪化しやすい

出っ歯は、上の前歯が前方に傾いて生えているため、前歯に唇がひっかかり口が閉じにくくなります。そうすると、口の中が乾燥しやすく、唾液が循環しにくくなるため、虫歯や歯周病のリスクが高まりやすいです。

②発音が難しく感じることがある

出っ歯だと、上の前歯が前方に傾いて生えているため、下の前歯とうまく咬み合わず隙間ができてしまいます。その隙間から息が漏れてしまうことで、はっきりとした発音が難しくなります。特に「サ行」「タ行」「ラ行」などが発音しにくいです。

③口元にコンプレックスを感じる

前歯は口元から見えやすいため、会話や食事、笑うときなどにコンプレックスを感じることがあります。手で口元を隠しながら話したり、あまり口を開かないようにしたりするなど、表情への自信が低下してしまうことも少なくありません。

④奥歯へ大きな負荷がかかる

正常な咬み合わせの状態だと、上下の歯がはバランス良く咬み合うため、咬む力はがそれぞれの歯に均等にかかります。しかし、出っ歯の場合は、前歯が前方に傾斜して生えているため、下の歯とうまく咬み合せることができません。奥歯を咬み合わせても、上下の前歯の間に隙間ができてしまうこともあります。
このような咬み合わせの状態だと、奥歯に咬む力がかかりやすくなります。それによって顎の関節(こめかみ付近に位置する)にも大きな負荷がかかり、将来的に顎関節症になりやすいです。

⑤外傷により前歯のダメージを受けやすい

出っ歯は、前歯が前方に傾斜して生えているため、転倒や衝突を起こすと、歯の神経にダメージが及んだり、歯が割れてしまったりする可能性が高くなります。

⑥咀嚼が偏ることで消化器官への負担に

出っ歯など歯並びが悪い場合は、前歯がうまく咬み合わないことで、咀嚼が偏りやすくなります。食べ物がしっかり咀嚼されないまま消化器官に送り込まれると、消化や栄養の吸収がスムーズに行われず、体への不調を引き起こす原因になることがあります。

出っ歯を改善するための矯正治療と外科治療について

出っ歯を改善する方法には、ワイヤー矯正、マウスピース矯正があります。重度の出っ歯の場合は、これらの矯正治療と外科手術を併用することがあります。

①ワイヤー矯正


治療方法 ・歯の表面にブラケットと呼ばれる装置を接着し、そこにワイヤーを通すことによって、歯を3次元的に動かします。
・装置を歯の表面に装着する「表側矯正」と、裏側に装着する「裏側矯正」の2つの方法があります。
・歯を大きく移動させることや、細かく動かすことができるため、幅広い症例に適応可能です。
・「裏側矯正」であれば、歯の裏側に装置を装着するので装置が目立ちにくいです。
・歯の表面に装置を接着する「表側矯正」でも、装置やワイヤーを透明や白色にすることで目立ちにくくすることもできます。(医院によって取り扱いがあるかどうか確認が必要です)
・歯全体を矯正する方法を「全体矯正」、部分的に矯正する方法を「部分矯正」といいます。軽度の症状であれば、部分矯正が可能です。
注意点 ・歯の表面に装置を装着する表側矯正では、装置が目立ちやすいです。
・歯に直接装置を接着するため歯磨きがしにくいです。
・装置が出っぱっているため、お口の粘膜や舌などが傷ついてしまうことがあります
・比較的歯を大きく移動させるため、痛みを感じやすいです。
治療期間の目安 ◎部分矯正 半年~1年
◎全体矯正 2~3年
費用の目安 ◎部分矯正 10万~70万くらい
◎全体矯正 表面矯正:60万~100万くらい、裏側矯正:100万~150万くらい
(裏側矯正は高度な技術が必要になるため、金額が高額になりやすいです)

②マウスピース矯正


治療方法 ・樹脂製の透明なマウスピースを矯正装置として使用するため、矯正治療をしているにも関わらず装置が目立ちません。
・食事や歯磨きの際は取り外せるので治療中のストレスを感じにくいです。
・自宅で装置交換を行うため、通院頻度は基本的に2ヶ月に1回と少なめです。
・歯が並ぶアーチを側方に拡げる「側方拡大」、奥歯を後ろ方向に動かす「後方移動」を得意とする治療法なので、出っ歯の矯正治療に適用されやすいです。
・治療のシミュレーションでは、治療経過から治療完了の状態まで動画で確認することができるため、治療内容が分かりやすいです。
注意点 ・1日20時間以上マウスピース矯正装置を装着する必要があります。
・基本的に2週間に1回のペースでマウスピース矯正装置を交換する必要があります。
・上記の2点を徹底するための自己管理が大切です。
治療期間の目安 ◎部分矯正 半年~1年
◎全体矯正 2~3年
費用の目安 ◎部分矯正 30~60万円くらい
◎全体矯正 80万~110万円くらい

③外科手術


治療方法 ・重度の出っ歯は顎骨自体が前に出ているため、外科手術で顎骨にアプローチすることで出っ歯が根本的に改善できます。
<治療の流れ>
全身麻酔を行って、顎骨を動かすスペースを確保するための便宜抜歯(基本的には第一小臼歯)を行います。併せてに、歯が埋まっている骨(歯槽骨)も切除します。骨を切除して確保されたスペースを利用して前歯部分を顎と一緒に後ろに移動し、プレートで固定します。口の内側から手術を行うため、傷口が目立つことはありません。
・手術前と手術後に矯正治療が必要になります。
・術前矯正で歯並びや咬み合わせを整え(1~2年程度)、術後矯正で顎骨の移動に合わせて歯をまっすぐ並べます(半年~1年程度)。
注意点 ・入院が必要です。
・麻酔がきれた後、痛みを感じたり、傷口から感染症にかかるリスクがあります。
(痛みが生じる場合には痛み止め、感染症を予防するために抗生剤を処方させていただきます)
治療期間の目安 ・手術は1日(2~3時間くらい)で完了しますが、手術前・手術後に矯正治療が必要になる場合は、治療期間が2~3年がかかることもあります。
・手術後2週間くらいは赤みや腫れが続くことがあります。
費用の目安 ◎外科手術による矯正治療が保険適用になる場合
自己負担3割の方であれば、下顎のみで約30万円、上下顎両方で約40~50万円くらいです。術前術後の矯正費用と入院費を合わせると、合計金額は60~80万円くらいになります。
(歯並びの悪い原因が骨格にあり、顎変形症と診断された場合は、保険適用になることがあります。歯科医院で相談してみましょう)
◎自費診療で行う場合
保険診療で外科治療を行う場合は、指定の医療機関で治療を受ける必要があります。
顎変形症と診断されず審美目的で治療を受ける場合や、指定の医療機関以外の医院で手術を受ける場合は、全て自費診療になります。そのため、外科治療+術前術後の矯正治療+入院費を合わせると200万円以上が相場となります。

当院のインビザラインを使った出っ歯の治療例

当院で実際に行ったインビザラインを使用した症例をご紹介します。

出っ歯の症例➀(8才 女性)

<治療前>


<治療後>


〇初診時年齢:8歳5ヶ月
〇主訴:上の前歯がでていて口が閉じづらい
〇診断:過大なオーバージェットを伴う過蓋咬合症例
〇治療内容:インビザライン・ファースト使用して主訴である上の前歯の突出を改善しつつ、前歯のかみ合わせが深い過蓋咬合についても下の前歯を押し下げて上あごの歯ぐきを噛まなくなるように改善しました。
〇治療期間:10ヶ月
〇リスク:矯正治療による歯の移動に伴う痛み、歯根吸収、虫歯
〇費用:40万円

出っ歯の症例②(23才 男性)

<治療前>


<治療後>


〇初診時年齢:23歳
〇主訴:出っ歯
〇診断:叢生を伴う骨格性I級、非抜歯
〇治療内容:前歯に隙間があり、捻れてしまっています。マウスピース矯正で治しました。
〇治療期間:6ヶ月
〇リスク:矯正治療による歯の移動に伴う痛み、歯根吸収、虫歯
〇費用:40万円

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出っ歯の矯正治療はマウスピース矯正も可能です!

マウスピース矯正は、出っ歯の矯正治療に向いています。「側方拡大」(歯が並ぶアーチを側方に拡大し前歯が移動するスペースを作り出す方法)と、「後方移動」(奥歯を順に後ろ側に移動させながら前歯が移動するスペースを作り出す方法)を得意としている治療法だからです。

マウスピース矯正にはいくつか種類がありますが、中でもアメリカのアライン・テクノロジー社が開発した「インビザライン」は世界トップのシェアを誇る商品です。
インビザライン治療を受けられた方は全世界で2000万人以上いらっしゃり、これらの症例をデータ化し、新たな治療計画に組み込むようなシステムになっています。スキャナーでお口の状態を読み込むことでシミュレーションもでき、治療経過から治療完了まで全て動画で事前に見ていただくことも可能です。

インビザラインは見た目を気にせず、取り外しも可能なため食事や歯磨きも通常通り行えるのが大きな特徴です。しかし、歯並びに骨格的な原因がある場合などはインビザラインが適用できないケースもあります。
まずは、歯科医院でお口の状態を診てもらい、あなたに合った治療法を提案してもらいましょう。当院では、無料カウンセリングも行なっております。お気軽にご相談ください。

無料メール相談はこちらから


監修者:増岡尚哉

歯科医師・歯学博士(D.D.S. , Ph.D.)|マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)の講師として歯科医師向けに講義・講演活動をしています。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。

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