COLUMN

歯列矯正の基礎知識コラム

【監修:増岡尚哉】


口元の中でも前歯は目立ちやすい部分のため、出っ歯に悩まれる方も多いです。しかし、出っ歯かどうかはどう判断するのでしょうか?今回は、出っ歯の原因や特徴、治療法についてご紹介していきます。

【目次】
1.それって出っ歯?まずは鏡を持ってセルフチェック​
  ●軽度と重度の境界
  ●出っ歯の症状
  ●出っ歯の原因
2.症状別・出っ歯の治療法
3.マウスピース型矯正装置で治療できる出っ歯の症状

それって出っ歯?まずは鏡を持ってセルフチェック

上の顎(あご)の前歯や骨が正常な位置よりも前に出過ぎている状態は、「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」といい、一般的には「出っ歯」といわれています。

通常、上の前歯は下の前歯よりも2~3mm程出ていますが、4mm以上出ていれば「出っ歯の傾向あり」と診断されます。学校保健法では、7~8mm以上の差がある場合は治療対象の基準値とされています。

「もしかして出っ歯かも…。」と気になる場合は、簡単にできるセルフチェックをしてみてはいかがでしょうか。

<すぐにできるセルフチェックの方法>
割り箸を用意して、鼻の先端と顎に当ててみましょう。鼻先・上唇・下唇・顎が一直線に結べるラインにあれば理想的な口元です。もしも上唇がライン上から前に出ている場合は出っ歯の傾向があるでしょう。

正面から見ると歯並びはキレイでも、横顔をチェックしたときに口元が突き出していれば上顎前突と判断します。自分では分かりにくい時は、身近な人に見てもらうのもいいですね。

しかし正確な診断をおこなうには詳しく調べる必要があるので、気になる場合は矯正専門医に相談することをおすすめします。

●軽度と重度の境界

上顎前突(出っ歯)は上の歯が前に出過ぎている状態で、不正交合の一種です。
「軽度の出っ歯」は歯並びが原因のもので、奥歯でしっかりと噛むことができていれば問題はありません。基本的には抜歯をせず、上下の前歯の向きや位置を矯正治療で調整することで改善することができます。

「重度の出っ歯」の場合は、
・上下の唇を合わせて口をしっかりと閉じることが難しい
・力を入れて無理に口を閉じると口元が歪む 
・前歯で嚙み切ることが難しい   といった特徴があります。

また、歯の傾きだけでなく、顎の骨の位置が大きくずれている(骨格の異常)場合も多いです。しかし、大人の「顎の骨格そのものが前に突き出ている出っ歯」は歯科矯正では治療はできません。
この場合はセットバック手術という外科手術を行い、改善することができます。

●出っ歯の症状

・前歯で食べ物をうまく噛み切れない
前歯の役割は食べ物を噛み切ること。しかし出っ歯の場合は、うどんなどの麺類を前歯で噛み切ることができません。他の歯で噛み切ろうとしてかみ合わせのバランスが崩れやすくなります。

・意識しないと唇を閉じられない
前歯が邪魔をして口が開いた状態が続くとお口の中が乾燥しやすくなります。唾液の分泌がされにくい状態は虫歯や歯周病のリスクが高まるため注意が必要です。

他にも「上唇が盛り上がっている」「横から見ると口元が膨らんだように見える」「上の前歯の真ん中の2本が目立つ」「口を閉じると顎先に梅干しのようなシワができる」などの症状もみられます。

●出っ歯の原因

では、出っ歯の原因は一体どこにあるのでしょうか?

①遺伝
歯の大きさや顎の大きさ、骨格などは親や親族から遺伝します。出っ歯自体が遺伝するわけではありませんが、口元の状態が引き継がれやすいといえるでしょう。

②上下の顎(あご)のバランス
骨格性上顎前突の場合、「上の顎の骨が前に出ている」「下顎の骨が小さい」など上下のバランスが崩れていることが原因となります。

③指しゃぶりなどのクセ
『ご両親の歯並びが整っていても、お子さんの歯並びはガタガタしている』というケースもあります。何が原因なのだろうと不思議に思う方もいるかもしれません。
実は、普段からの何気ない行動が影響していることもあるのです。
3歳以降も長時間指しゃぶりをする、爪を噛む、舌で前歯を押す、唇を噛むなどの習慣に心当たりはありませんか?

④口呼吸(アデノイド、扁桃肥大、鼻炎などを伴う)
アデノイド、扁桃肥大、鼻炎などが原因で、鼻呼吸ではなく口呼吸になっている場合も出っ歯になりやすくなります。お口がポカンと開いた状態が続くと、唇が歯を押さえつける力が弱くなってしまうためです。

骨格の改善は難しくても、指しゃぶりや口呼吸などの癖を改善すると出っ歯のリスクを下げることができます。意識して治すようにしていきましょう。

症状別・出っ歯の治療法

出っ歯の症状にも個人差があり、歯や顎(あご)の状態も異なるため治療方法もすべてが同じではありません。

ここでは「歯槽性」「骨格性」「骨格性・歯槽性の混合」の3タイプに分けて、それぞれの状態と治療法についてお話していきます。

①「上の歯が外側」または「下の歯が内側」に傾いている(歯槽性)
歯槽性の出っ歯は、顎の骨は正常ですが歯の生える角度によって出っ歯になった状態です。「上の歯が前に向かって斜めに生えている」「下の歯が内側に向かって生えている」もしくはその両方の状態などがあります。
歯がお口の外にでてしまうため歯茎が乾燥しやすく、歯周病のリスクも高まります。

≪治療方法≫
歯を正しい位置に移動させることで改善できるため、歯並びを治すワイヤー矯正、裏側矯正、マウスピース型矯正装置などの治療が一般的です。状態によっては部分矯正や補綴治療によるかぶせ物での改善も可能ですが、詳しい診査・診断が必要です。

②「上顎が前方に突出している」または「下顎が内側に引っ込んでいる」(骨格性)
骨格性の出っ歯は、上顎の骨自体が下顎の骨より前に出ているため前歯が出ている状態です。改善するためには歯茎ごと前歯を内側に引っ込める必要があります。

≪治療法≫
歯を動かす矯正治療では骨の位置を変えることができないため、改善するには顎の骨を切る外科手術+矯正治療が必要です。
例えば顎変形症のような重度の出っ歯の場合、顎の骨を切る外科手術の前後にワイヤー矯正やマウスピース矯正を行って治療することがあります。

また症例によっては、歯科矯正用アンカースクリューという非常に小さなネジを用いた「インプラント矯正」という治療するケースも。

③歯が傾斜し、さらに顎骨の位置がずれている(骨格性及び歯槽性混合)
3つ目は①歯槽性の出っ歯と②骨格性の出っ歯が混合しているタイプの出っ歯です。出っ歯の中で最も多くみられます。
原因は「先天的な顎の骨の問題」に、「後天的な子供の頃からの癖(ゆびしゃぶり等)」が影響していると考えられます。

≪治療方法≫
矯正治療と外科手術、両方の治療が必要な場合もあります。しかし手術にかかる患者様ご自身の身体的・経済的・時間的負担が大きいことから、矯正治療だけでどこまで治療できるかを検討するのが現実的です。

マウスピース型矯正装置で治療できる出っ歯の症状

出っ歯の改善において様々な治療法がありますが、軽度~中度の出っ歯はマウスピース型矯正装置での治療が可能です。

●歯槽性の上顎前突
前歯がお口の外側や内側に傾斜しているタイプの出っ歯の場合、マウスピース型矯正装置で歯の傾斜をコントロールすることができます。

●軽度の骨格性上顎前突
上顎の骨自体が下顎よりも前に出ているタイプの出っ歯の場合、抜歯を伴うマウスピース型矯正装置での治療により上顎前突を改善していきます。

また歯槽性の出っ歯に加えて
・歯がデコボコにならんでいる「叢生(そうせい)」
・上下の前歯の間が開いている「開咬(かいこう)」
・「反対咬合(受け口)」

これらの症状が併発していてもマウスピース型矯正装置で治療することができます。

しかし、重度の骨格性上顎前突の場合などマウスピース型矯正装置に向いていない症状もあるため注意が必要です。

当院では、事前カウンセリングを丁寧に行い、患者様にとって最適な治療方法を提案しております。下記ボタンから、実際の症例を御覧いただけますので是非ご確認ください。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。