抜歯が必要な歯列矯正、老後にどんな影響がある?抜歯の前に知っておきたいこと
- 公開日:2022/12/08
- 監修者:増岡尚哉
- 更新日:2025/12/02
「矯正で歯を抜くって本当に必要?」「歯が減ったら老後に困らない?」──
そんな不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
確かに“歯を抜く”という言葉には抵抗があります。
しかし実は、抜歯を伴う矯正によって噛み合わせが整い、歯の寿命が延びるケースも多いのです。
この記事では、
・抜歯を伴う矯正のメリットとリスク
・老後の歯の健康への影響
・抜歯前に知っておきたい判断基準
を、矯正医の視点からやさしく解説します。
【目次】
1.老後も健康な歯を維持したい!歯列矯正の意義とは
2.抜歯を伴う矯正は本当に必要?
3.抜歯が必要になるケース
4.抜歯をしない矯正のリスク
5.老後の健康を支える「歯並びと噛み合わせ」
6.老後に後悔しないための“守るための抜歯”
7.よくある質問(Q&A)
老後も健康な歯を維持したい!歯列矯正の意義とは
「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」という言葉を耳にしたことはありますか?
これは、日本歯科医師会と厚生労働省がすすめている運動で、 「80歳になっても自分の歯を20本以上残そう」という目標を掲げたものです。
実は近年、この取り組みに大きな成果が出ています。
厚生労働省が行った「平成28年(2016年) 歯科疾患実態調査」では、 80歳で20本以上の自分の歯を持つ人(=8020達成者)の割合が、 前回の40.2%から51.2%へと初めて半数を超え、さらに令和6年(2024年)の同調査では、61.5%まで急増しました。
この数字は、国の健康づくり計画「健康日本21(第二次)」で掲げられていた 「8020達成者を50%にする」という目標を上回る結果であり、 同時に日本歯科医師会が目指してきた「8020健康長寿社会」がついに実現されたことを意味しています。
つまり、多くの人が「自分の歯で一生食べる」という目標を 実際に叶えられる時代になってきたのです。
歯がしっかり残っていれば、硬い食べ物もおいしく食べられますし、 外食や旅行、友人との会話なども気兼ねなく楽しめます。
噛めることは栄養だけでなく、生きる意欲や笑顔にもつながる大切な要素です。
そして、80歳で多くの歯を残している方に共通しているのが、 歯並びが整い、噛み合わせが安定しているということ。
きれいな歯並びを実現する歯列矯正は、見た目の印象だけでなく、歯を長く守るための“土台づくりでもあるのです。
抜歯を伴う矯正は本当に必要?
抜歯をして矯正をする場合、「歯が減る」という心理的な不安を抱く方が多いです。
しかし、顎の大きさに対して歯の数やサイズが合わない場合、必要最小限の抜歯を行った方が、結果的に歯列が安定しやすくなることがあります。
顎のスペースが狭いまま無理に歯を並べると、歯が外側に押し出されて歯茎が下がったり、奥歯がズレたりして噛み合わせが不安定になります。
そのため、「歯を抜く」=「歯を減らす」ではなく、「歯を守るための選択」と捉えることが大切です。
専門医コメント(増岡尚哉)
「矯正治療における抜歯は“減らす”ためではなく、“正しく噛むための準備”。
長期的に見れば、残る歯を守るための合理的な方法といえます。」
抜歯が必要になるケース
抜歯の有無は、顎の大きさ・歯の並び方・歯と歯の重なり具合などを 総合的に判断して決めます。
【抜歯が必要になることが多いケース】
- 歯がデコボコに並んでいる(叢生)
- 前歯が前に出ている(出っ歯)
- 上の前歯が下の歯を深く覆っている(過蓋咬合)
- 下の歯が上の歯より前に出ている(受け口)
- 顎が小さく、歯が並ぶスペースが足りない
【抜歯をするメリット】
- 歯並びと噛み合わせが無理なく整う
- 歯磨きがしやすく、虫歯や歯周病を防ぎやすい
- 顎や筋肉への負担を減らせる
- 顔全体のバランスが自然に整う
- 矯正後の後戻りを防ぎやすい
抜歯をしない矯正のリスク
一方で、「抜かない方が安全」と思ってしまう方もいます。
しかし、抜歯が必要なケースで無理に非抜歯矯正を行うと、 以下のようなリスクが生じることがあります。
- 歯が前に出て、唇が閉じにくくなる
- 歯ぐきが下がり、歯の根が露出してしみる
- 奥歯の位置がずれて噛み合わせが不安定になる
- 顎や関節に負担がかかり、痛みを生じることも
無理に歯を詰め込む矯正は、長い目で見るとお口の健康を損ねる原因になることもあります。
老後の健康を支える「歯並びと噛み合わせ」
年齢を重ねると、歯や歯ぐきの状態は変化します。
特に60代以降は唾液量が減り、歯ぐきが下がりやすくなるため、 歯のケアが難しく感じる方も増えてきます。
【高齢期に起こりやすい口内トラブル】
- 歯と歯肉の境目のすり減りなどから歯茎が下がる
- 唾液の分泌量が減り、口臭が起きやすくなる
- 歯茎が下がって露出した歯根部に歯垢や歯石がつきやすい
- 歯や入れ歯についた細菌が増殖しやすい など
歯列矯正で歯並びが整っていると、歯磨きがしやすくなり、虫歯や歯周病のリスクをぐっと下げることができます。 また、しっかり噛めることで脳が刺激され、認知症予防や全身の健康維持にもつながります。
老後に後悔しないための“守るための抜歯”
いつまでも自分の歯でおいしく食べるためには、正しい噛み合わせと整った歯並びが欠かせません。
抜歯を伴う矯正は決して特別なことではなく、お口全体のバランスを整えるための、将来を見据えた選択肢のひとつです。
当院では、抜歯・非抜歯の両方をシミュレーションし、一人ひとりの顎の形や歯の状態、年齢に合わせた最適な治療プランをご提案しています。
違和感を感じたときが、相談のタイミングです。
お気軽に当院の無料カウンセリングをお申込みください!
よくある質問(Q&A)
Q1. 抜歯をしたら歯の本数が減るけれど、老後に問題はありませんか?
A1. 問題ありません。噛み合わせが整うことで、歯にかかる負担が分散し、結果的に歯を長持ちさせやすくなります。
Q2. 抜歯をしない矯正の方が安全では?
A2. 症例によっては、抜かない方がリスクになる場合もあります。顎のスペースが足りないまま並べると、歯ぐきが下がったり前歯が出たりすることがあります。
Q3. 抜歯矯正後、老後の噛み合わせに影響しますか?
A3. 適切な治療を行えば、むしろ噛み合わせが安定します。定期的なメンテナンスで長く良い状態を維持できます。
Q4. 抜歯をするかどうかは自分で決められますか?
A4. 医師が顎や歯列のバランスを見て総合的に判断します。当院では両方のシミュレーションを行い、納得いただいたうえで治療を進めます。

監修者:増岡尚哉
歯科医師・歯学博士(D.D.S. , Ph.D.)|マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)の講師として歯科医師向けに講義・講演活動をしています。
この記事をシェアする
関連した記事
関連した記事はありません。