「矯正で歯を抜くって本当に必要?」「歯が減ったら老後に困らない?」──
そんな不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
確かに“歯を抜く”という言葉には抵抗があります。
しかし実は、抜歯を伴う矯正によって噛み合わせが整い、歯の寿命が延びるケースも多いのです。

この記事では、

・抜歯を伴う矯正のメリットとリスク
・老後の歯の健康への影響
・抜歯前に知っておきたい判断基準

を、矯正医の視点からやさしく解説します。

【目次】
1.老後も健康な歯を維持したい!歯列矯正の意義とは
2.抜歯を伴う矯正は本当に必要?
3.抜歯が必要になるケース
4.抜歯をしない矯正のリスク
5.老後の健康を支える「歯並びと噛み合わせ」
6.老後に後悔しないための“守るための抜歯”
7.よくある質問(Q&A)

老後も健康な歯を維持したい!歯列矯正の意義とは


「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」という言葉を耳にしたことはありますか?

これは、日本歯科医師会と厚生労働省がすすめている運動で、 「80歳になっても自分の歯を20本以上残そう」という目標を掲げたものです。

実は近年、この取り組みに大きな成果が出ています。
厚生労働省が行った「平成28年(2016年) 歯科疾患実態調査」では、 80歳で20本以上の自分の歯を持つ人(=8020達成者)の割合が、 前回の40.2%から51.2%へと初めて半数を超え、さらに令和6年(2024年)の同調査では、61.5%まで急増しました。

この数字は、国の健康づくり計画「健康日本21(第二次)」で掲げられていた 「8020達成者を50%にする」という目標を上回る結果であり、 同時に日本歯科医師会が目指してきた「8020健康長寿社会」がついに実現されたことを意味しています。

つまり、多くの人が「自分の歯で一生食べる」という目標を 実際に叶えられる時代になってきたのです。

歯がしっかり残っていれば、硬い食べ物もおいしく食べられますし、 外食や旅行、友人との会話なども気兼ねなく楽しめます。
噛めることは栄養だけでなく、生きる意欲や笑顔にもつながる大切な要素です。

そして、80歳で多くの歯を残している方に共通しているのが、 歯並びが整い、噛み合わせが安定しているということ。
きれいな歯並びを実現する歯列矯正は、見た目の印象だけでなく、歯を長く守るための“土台づくりでもあるのです。

抜歯を伴う矯正は本当に必要?

抜歯をして矯正をする場合、「歯が減る」という心理的な不安を抱く方が多いです。
しかし、顎の大きさに対して歯の数やサイズが合わない場合、必要最小限の抜歯を行った方が、結果的に歯列が安定しやすくなることがあります。
顎のスペースが狭いまま無理に歯を並べると、歯が外側に押し出されて歯茎が下がったり、奥歯がズレたりして噛み合わせが不安定になります。
そのため、「歯を抜く」=「歯を減らす」ではなく、「歯を守るための選択」と捉えることが大切です。

専門医コメント(増岡尚哉)
「矯正治療における抜歯は“減らす”ためではなく、“正しく噛むための準備”。
長期的に見れば、残る歯を守るための合理的な方法といえます。」

抜歯が必要になるケース


抜歯の有無は、顎の大きさ・歯の並び方・歯と歯の重なり具合などを 総合的に判断して決めます。
【抜歯が必要になることが多いケース】

  • 歯がデコボコに並んでいる(叢生)
  • 前歯が前に出ている(出っ歯)
  • 上の前歯が下の歯を深く覆っている(過蓋咬合)
  • 下の歯が上の歯より前に出ている(受け口)
  • 顎が小さく、歯が並ぶスペースが足りない

【抜歯をするメリット】

  • 歯並びと噛み合わせが無理なく整う
  • 歯磨きがしやすく、虫歯や歯周病を防ぎやすい
  • 顎や筋肉への負担を減らせる
  • 顔全体のバランスが自然に整う
  • 矯正後の後戻りを防ぎやすい

抜歯をしない矯正のリスク

一方で、「抜かない方が安全」と思ってしまう方もいます。
しかし、抜歯が必要なケースで無理に非抜歯矯正を行うと、 以下のようなリスクが生じることがあります。

  • 歯が前に出て、唇が閉じにくくなる
  • 歯ぐきが下がり、歯の根が露出してしみる
  • 奥歯の位置がずれて噛み合わせが不安定になる
  • 顎や関節に負担がかかり、痛みを生じることも

無理に歯を詰め込む矯正は、長い目で見るとお口の健康を損ねる原因になることもあります。

無料相談はこちらから

老後の健康を支える「歯並びと噛み合わせ」

年齢を重ねると、歯や歯ぐきの状態は変化します。
特に60代以降は唾液量が減り、歯ぐきが下がりやすくなるため、 歯のケアが難しく感じる方も増えてきます。

【高齢期に起こりやすい口内トラブル】

  • 歯と歯肉の境目のすり減りなどから歯茎が下がる
  • 唾液の分泌量が減り、口臭が起きやすくなる
  • 歯茎が下がって露出した歯根部に歯垢や歯石がつきやすい
  • 歯や入れ歯についた細菌が増殖しやすい など

歯列矯正で歯並びが整っていると、歯磨きがしやすくなり、虫歯や歯周病のリスクをぐっと下げることができます。 また、しっかり噛めることで脳が刺激され、認知症予防や全身の健康維持にもつながります。

老後に後悔しないための“守るための抜歯”

いつまでも自分の歯でおいしく食べるためには、正しい噛み合わせと整った歯並びが欠かせません。

抜歯を伴う矯正は決して特別なことではなく、お口全体のバランスを整えるための、将来を見据えた選択肢のひとつです。

当院では、抜歯・非抜歯の両方をシミュレーションし、一人ひとりの顎の形や歯の状態、年齢に合わせた最適な治療プランをご提案しています。

違和感を感じたときが、相談のタイミングです。
お気軽に当院の無料カウンセリングをお申込みください!

無料相談はこちらから

よくある質問(Q&A)

Q1. 抜歯をしたら歯の本数が減るけれど、老後に問題はありませんか?
A1. 問題ありません。噛み合わせが整うことで、歯にかかる負担が分散し、結果的に歯を長持ちさせやすくなります。

Q2. 抜歯をしない矯正の方が安全では?
A2. 症例によっては、抜かない方がリスクになる場合もあります。顎のスペースが足りないまま並べると、歯ぐきが下がったり前歯が出たりすることがあります。

Q3. 抜歯矯正後、老後の噛み合わせに影響しますか?
A3. 適切な治療を行えば、むしろ噛み合わせが安定します。定期的なメンテナンスで長く良い状態を維持できます。

Q4. 抜歯をするかどうかは自分で決められますか?
A4. 医師が顎や歯列のバランスを見て総合的に判断します。当院では両方のシミュレーションを行い、納得いただいたうえで治療を進めます。


監修者:増岡尚哉

歯科医師・歯学博士(D.D.S. , Ph.D.)|マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)の講師として歯科医師向けに講義・講演活動をしています。

プロフィールはこちら

この記事をシェアする

関連した記事

関連した記事はありません。

歯列矯正の基礎知識コラムトップ

その他の記事を見る




【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。

PAGE
TOP