COLUMN

歯列矯正の基礎知識コラム

【監修:歯科医師 増岡尚哉】


歯科矯正は治療期間が長く、痛みが心配だと思われている方は多くいらっしゃいます。

歯科矯正中はどのような痛みがあるのか、その痛みは何が原因なのか、またどのくらいの期間痛みが続き、痛みを和らげる方法はあるのかなど、様々な角度から矯正中の痛みについて詳しくお話していきます。

【目次】
1、ワイヤーやブラケットなど、ワイヤー矯正の痛みの種類
 ・矯正器具による痛み
 ・歯が動く時の痛み
 ・噛む時の痛み
2、矯正中の痛みを和らげたいときの対処法
3、ワイヤー矯正の痛みはいつまで続く?
4、マウスピース型矯正装置による痛みは?

ワイヤーやブラケットなど、ワイヤー矯正の痛みの種類

ワイヤー矯正はブラケットと呼ばれる装置とワイヤーを使って歯を動かしていきます。

ブラケットやワイヤーは歯の表面に装着するのでそれが原因でお口の中が傷ついたり、歯が動くことで痛みが出ることがあります。

しかし、矯正期間中ずっと痛みが続くわけではありません。痛みの主な原因と痛みの期間を詳しく挙げてみます。

矯正器具による痛み

矯正器具が当たることによる痛みは、多くの場合、ワイヤーとブラケットを使う矯正で起こります。歯の表面に装着した矯正器具の一部が口の内側や舌に接触することで、口内炎ができて痛みを感じることがあります。口内炎ができてしまった場合、基本的に3~4日までが痛みのピーク。1週間もすれば自然に治ることが多いようです。

吹奏楽で楽器を演奏する場合、唇にあたって痛みを感じたり、またスポーツでボールなどが口に当たると唇や粘膜が傷つく可能性もあり、矯正治療中は注意して過ごしていただくことをお勧めします。

矯正治療中、ワイヤーを強く締めることで装置が外れたり、歯が移動することで、ワイヤーが緩んでがはずれてしまうこともあります。そうした際には、金具やワイヤーでお口をケガしないよう気を付け、早めに歯科医院で処置を受ける必要があります。

歯が動く時の痛み

矯正治療は歯を少しずつ動かして治療していきます。

そもそも歯は骨の中に埋まっていて、少し押しただけで移動することはありません。しかし、矯正装置を使って歯に負荷をかけ続けると、歯は少しずつ移動します。矯正器具により歯が骨に押し付けられると、歯の周囲にある歯根膜は正常な状態に戻ろうとします。この際、細胞の働きにより押し付けられた側の骨が溶け、反対側には骨が形成されます。矯正では、人間が持つこの働きを利用して歯を動かしていくのです。

この仕組みの中で、骨が溶ける際に痛みを感じさせる物質が分泌されます。そのため、矯正歯科でワイヤーを締め上げた後には、しばらくして歯が動くのに伴って痛みが出始めます。

痛みは矯正装置を付けてから3~6時間ほどで始まり、およそ36時間後がピーク。その後、徐々に痛みは減り、1週間もすれば治まります。

痛みの感じ方は人それぞれですが、ワイヤー矯正ではほとんどの人がこうした痛みを感じるものです。どうしても痛みに耐えられない場合には、担当医の判断のもとワイヤーを緩めて様子をみることもあります。

噛む時の痛み

ワイヤーの交換したりや締め直しをした後、歯が動くことによる痛みを感じている間は、食事の際にも痛みを感じることがあります。とくに硬いものは、痛くて噛めないこともあるかもしれません。

痛みが治まるまでの数日~1週間程度は、歯にやさしい食事がおすすめです。

矯正中の痛みを和らげたいときの対処法

長い矯正期間中に出てくる痛みを思うと不安になりますが、痛みの対処法を知っていると安心に繋がります。ここからはそれぞれの原因で痛むときの対処法をご紹介します。

【矯正器具によって痛む場合】

ワイヤーやブラケットを装着した最初の頃はお口の中が装置に慣れていないことで、お口の内側の粘膜が擦れたり、舌で触ったりして口内炎ができるケースが多いです。

その場合、2~3日はチリチリ痛みますが、1週間くらいすると落ち着いてきます。

通常、歯が動いてくることで装置が粘膜に当たりにくくなり口内炎の発症も落ち着いてきます。しかし、1週間が過ぎてもまだ痛むようであれば、器具の表面に矯正用ワックス(粘土のようなもの)を付けて器具と粘膜が直接当たらないように調整することもできます。

ブラケットやワイヤーが外れたり壊れたりして粘膜に当たり痛む場合があります。その場合は矯正用ワックスで器具が一時的に当たらないようにして、なるべく早めにかかりつけの歯科医院に行って対応してもらいましょう。

【歯が動くときに痛む場合】

矯正装置を装着すると3~4時間で歯は動いてきて、それとともにジンジンとした痛みが出てきます。歯は骨を溶かしながら動いていくので、骨が溶けるときの炎症によって痛みを感じます。

この場合、鎮痛剤を服用して痛みを抑えたいところですが、鎮痛剤には炎症を鎮める作用があるため、歯が動く際に出てくる炎症も抑えることになり歯が動きにくくなります。

我慢ができないくらいのひどい痛みであれば鎮痛剤を飲んでも構いませんが、なるべく鎮痛剤を避けて痛みのある部分を氷などで冷やして落ち着かせて様子をみましょう。

1週間くらいで痛みは落ち着き、違和感程度に変わっていきます。

【食べ物を噛むときに痛む場合】

先述の「歯が動くときに痛む場合」と同様に食べ物を噛むときにも同じようなジンジンとした痛みが出ることがあります。

こちらも歯が動く時の痛みと同様に1週間くらいで落ち着いてきますが、痛みのせいで食事を抜くことがないように食事はしっかり1日3食摂るようにします。

固いものや刺激の強いものは避けて、おかゆや野菜ポタージュのようにいつもより食材を小さく切って柔らかく調理をします。

お肉やお魚は薄切りを使ったり、片栗粉でとろみをつけて食べやすくするなどひと手間かけて食べやすくしましょう。

ワイヤー矯正の痛みはいつまで続く?

ワイヤー矯正の場合、ブラケットとワイヤーは長期間装着することになります。その治療期間内で痛みが予想される期間を以下にまとめてみます。

■矯正器具装着時(初期):
装置を初めて装着した日~1週間程度:口内炎、歯が動くときの痛み、噛むときの痛みが起こる可能性があります。

■矯正器具の交換時(治療期間中数回):
交換した日~1週間程度:口内炎、歯が動くときの痛み、噛むときの痛みが起こる可能性があります。慣れてくると、痛みというより違和感程度になることもあります。

■その他の痛み:
・ブラケットやワイヤーが外れて痛む、ほっぺたを噛むなど、口内を傷つけた場合は数日間痛みを伴うことがあります。
・歯が動く時の血行不良の影響で、個人差がありますが一時的な痛みが出ることがあります。

このように、数年の矯正治療中に起こる痛みは、1週間程度の期間が数回起こる程度であると考えられます。

また、歯の動かし方が一定になったり痛み自体に慣れてきたりすると、痛みとしてあまり感じなくなることがあります。

ずっと痛みが続くわけではないので安心です。

トラブルや不安は気軽に相談してみよう

痛みを感じる場合は、これまでにご説明したように、まずは歯科医に相談しましょう。そもそも矯正は、患者さんの協力の下、長くコツコツと続けることで結果を出す治療法です。親身になって、痛みの改善に当たってくれるでしょう。

まだ矯正を検討している段階の方は、歯科医院での初回カウンセリングで、心配に思うことをとことん質問してみてください。当院では、初回カウンセリングにて痛みへの不安はもちろんのこと、治療費用や治療後の歯並びのことなど、さまざまな疑問にお答えしています。

また当院では、この初回カウンセリング時に口腔内の診察、写真撮影、iTeroを使用した矯正治療のシミュレーションを行い、具体的な治療イメージについてご説明しています。カウンセリングを受けていただけるので、ぜひ一度ご連絡ください。

カウンセリングについての詳細はこちらから

マウスピース型矯正装置による痛みは?

歯科矯正には痛みが伴うのでどうしてもネガティブなイメージがつきまといがちですが、マウスピース型矯正装置での痛みは実際どうなのでしょうか?

マウスピース矯正型矯正装置による矯正治療でも、歯を移動させる際に生じる痛みはワイヤー矯正と同じです。

ただ、どうしてもお痛みの強い際にはマウスピースを取り外すことでお痛みが和らぐため、患者様がご自身である程度お痛みの調整をすることができます。

現在では、このようにさまざまな矯正治療法を選択することができますので、あまり心配しすぎず、お気軽に担当医に相談してみてください。皆様にとってベストな歯科矯正方法を探してくれるはずです。





【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。