COLUMN

歯列矯正の基礎知識コラム

【監修:歯科医師・増岡尚哉】


ドラッグストアやインターネットで市販のマウスピースが販売されているのを見かけます。

近年、歯科矯正にはマウスピース矯正という方法がありますが、市販のマウスピースで矯正は可能なのでしょうか?
結論から言うとおすすめしません。

市販のマウスピースがおすすめできない理由を解説していきます。

【目次】
1、市販のマウスピースに効果はあるのか?
2、市販のマウスピースのリスク
  ・①効果の保証はなく、リスクはすべて自己責任。
  ・➁むしろ歯並びを悪化させたり、歯を痛めてしまう可能性がある。
  ・③歯並びの改善効果はそれほど期待できない
3、歯科医院でマウスピースを作るメリット
  ・①専門機器を使い精度の高いマウスピースを制作してくれる
  ・➁治療計画を総合的に立てるため着実に目標に到達できる
  ・③歯科医師の専門知識に基づいて設計されている
  ・④万一のトラブルやさまざまな要望にも細やかに対応できる
4、マウスピース矯正をお考えなら矯正専門歯科医院にご相談を

市販のマウスピースに効果はあるのか?

市販のマウスピースは用途によっては使用しても問題ない場合があります。

例えば、次のような場合です。

  • ラグビーやボクシングなど人と人の接触が激しいスポーツをするときに歯を守るため
  • 寝ている間の歯ぎしりによる歯の食いしばりやすり減りを軽減させるため
  • 寝ている間のいびきを予防するため
  • 自宅で行うホワイトニングの薬液を浸透させる

ご覧の通り、歯並びをよくする矯正の効果はありません。

ただし、上に挙げたようなケースでも、一般的な歯列の形で作製された商品を使用する以上、ご自身の歯並びにぴったり合わない・外れやすい・分厚く違和感が多いといった声は多く聞きます。

中にはお湯であたためてやわらかくしたマウスピースを装着して、ご自身の歯列に合わせるといったものもあります。多少のフィット感はありますが、それでも違和感が多いことには変わりはないようです。

ご自分の歯に合っていないマウスピースを使用することは、余計な力が歯や顎に加えられ痛みが出てきたり、口が開きにくくなったり、逆に歯並びが悪くなるといったケースも起こりえます。

市販のマウスピースのリスク

歯科医院で作製するマウスピースと、市販のマウスピースはどのような違いがあるのでしょうか。市販のマウスピースによって起こるリスクを挙げてみます。

①効果の保証はなく、リスクはすべて自己責任。

通常、歯科医院で行う矯正は歯科医師の診断の元治療を進めますので、精密な診断、計画、治療経過の観察、歯周病や虫歯の予防・治療を行います。

しかし、市販のマウスピースで矯正をすることは、それらの診断もなければ歯を正しく並べる保証もなく、また、知らず知らずのうちに虫歯や歯周病が悪化していた、ということも珍しくありません。

痛みや何らかのトラブルが起こった時も歯科医院で行う矯正治療の場合はすぐに対応をしてもらえますが、市販のマウスピースを使用して起きた痛みやトラブルは歯や顎に取り返しのつかないダメージを与えることになり、すべて自己責任となります。

➁むしろ歯並びを悪化させたり、歯を痛めてしまう可能性がある。

矯正治療では、歯並びを整えるだけではなく、上下の歯のかみ合わせや顎の動き、悪い習癖などを防ぐ指導が受けられるなど、治療計画は綿密で多岐にわたります。

特に歯をきれいに並べると同時にかみ合わせを整えることは大切な治療です。市販のマウスピースだとかみ合わせまで整えることはできません。

③歯並びの改善効果はそれほど期待できない

歯科医院で行うマウスピース矯正は、数十枚の形の違うマウスピースを作成し、順番に交換していくことで少しずつ歯を動かしていきます。

ですから、市販の1枚のマウスピースだけで理想の歯並びにすることはできないのです。そしてマウスピース1枚あたり動かせる距離は0.25mmですので、見た目に変化が出るほどの効果も期待できません。

また、マウスピース矯正で使用するのはマウスピースだけでなありません。「アタッチメント」や「暫間ゴム」といった様々な器具を適切なタイミングで使用することで、ピンポイントに力を加えながら正確に歯を動かしていきます。

市販のマウスピースにはそれらの器具はありません。

歯科医院でマウスピースを作るメリット

歯列矯正用のマウスピースを歯科医院で作成するメリットはたくさんあります。精度の高い診断、計画、設計、万が一のトラブル対応など様々です。

①専門機器を使い精度の高いマウスピースを制作してくれる

患者さんのお口の中を精密に診断するため、専門の機器で検査、診断を行います。歯の型を採り、レントゲン撮影、デジタルスキャン、光学スキャナなど最新の機器を使用し、コンピューターで精度の高い診断と計画が立てられた上でマウスピースが作製されます。

治療開始から完了時期まで数十枚のマウスピースが作製されますが、患者さんお一人お一人に合ったマウスピースがオーダーメイドで作製されるので、歯にぴったり装着され、歯にかかる力も適切にコントロールされています。

なお、矯正治療用ではなく歯ぎしりや食いしばり対策のマウスピースを作製する場合も、市販のものではなく、歯科医院であなたにぴったりあったマウスピースを作製するのが圧倒的におすすめです。

➁治療計画を総合的に立てるため着実に目標に到達できる

コンピューターで治療計画が立てられるので、治療のゴールの予想を事前に確認できます。治療前に理想の状態が確認できるのでモチベーションを保てることもメリットの一つです。

歯は、顎の骨に埋まって支えられています。ですから、顎の骨の範囲内でしか歯を動かすことはできません。

事前に治療計画を立てて、すべての歯に対して「この歯を何ミリ動かすか」「動かしたときに上下の噛み合わせが合うか」という計算をし、安全性を確保した上で初めて、実際に矯正治療を行うことができるのです。

顎骨の大きさも厚みも、歯の大きさも一人ひとり違うため、マウスピースはすべてオーダーメイドで作製したものを使用します。

③歯科医師の専門知識に基づいて設計されている

歯科医院で作製される、矯正用のマウスピースは歯並びを改善する目的で設計されています。

複数の形の違うマウスピースを作成し、順番に装着することで少しずつ歯を動かしていくことができます。

歯に適切な力が掛かるように設計されており、また1本の歯だけを動かすために歯の表面に付ける「アタッチメント」という器具や、上下の歯が正常にかみ合うように動かすための「暫間ゴム」といった補助装置を組み合わせることで安全に歯を動かしていきます。

患者様にとってはどれも同じマウスピースに見えるかもしれませんが、矯正治療は精密な診断と治療計画なしに行うことはできません。ご自身の判断で歯を動かそうとすることは絶対に避けてください。

④万一のトラブルやさまざまな要望にも細やかに対応できる

患者様の歯や骨、身体の状態、マウスピースの装着時間などによっては計画通りに進まない場合もあります。

また、何らかのトラブルが起こることで治療の進み具合は予定より変わることがあります。その場合は、治療計画を見直し軌道修正を行う必要があり、場合によってはマウスピースを作り直すことも検討します。

歯科医院に定期的に通うことで歯科医師が細かくチェックし調整を行い、虫歯や歯周病などのトラブルも未然に防ぐことができます。

市販のマウスピースでは専門的なチェックが受けられないため、お口の中のトラブルや異変を見逃したり、悪化させてしまいかねません。

歯や骨は一度失うと戻ることはありませんので、本来は慎重に判断しなければならないということを忘れないでください。

マウスピース矯正をお考えなら矯正専門歯科医院にご相談を

市販のマウスピースに歯並びを整える効果はありません。

自己診断が難しく歯並びのみならず歯そのものや顎の骨などに悪い影響を与える可能性さえあります。その場合、元々の治療期間より多くの時間が必要になったり、費用が増えたりする可能性もあります。

マウスピースで歯並びをきれいにすることをお考えなら、ぜひ当院へ一度ご相談ください。

当院では初回カウンセリングを行っております。歯並びについて気になること、不安なこと、何でもご相談ください。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。