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歯列矯正の基礎知識コラム

【監修:歯科医師 増岡尚哉】


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一般的な歯科治療と違い、矯正は長い期間がかかりそう…というイメージの方もいらっしゃるのではないでしょうか。歯の矯正を始めてみようと思った時に、不安に感じる方も多い「矯正期間」。今回は「平均的な矯正期間」や「できるだけ早く終わるための方法」についてご紹介していきます。

【目次】
1、大人と子供で違う歯科矯正に必要な期間
  ・矯正期間に保定期間がプラスされる
  ・歯の矯正に長い期間が必要な理由
2、主な歯科矯正の種類と平均治療期間
  ・唇側からの歯科矯正(ブラケット矯正)
  ・歯の裏側からの歯科矯正(裏側・舌側矯正)
  ・マウスピース型装置での歯科矯正
3、矯正期間を短くするための注意点
  ・計画通り通院すること
  ・規定どおりに装置を使用すること
  ・歯磨きをしっかりすること

大人と子供で違う歯科矯正に必要な期間

歯列矯正とは時間をかけて歯を動かし、目標とする歯並びに修正していくものです。
そのため、すでに骨の成長が終わっている大人に比べ、成長過程の子どもの方が時間がかかる場合があります。
矯正期間の目安は以下の通りです。

●大人の歯列矯正期間…【全体】約1年~3年 【部分】3か月~1年
年齢や矯正治療の方法、お口の状態によって個人差があるため、おおよその目安期間です。歯並びが大きくデコボコしている、虫歯や歯周病の治療に時間がかかるなどの場合は、矯正期間が長引く可能性があります。一方で、あまり矯正の必要がない人は数か月で完了するケースも。「前歯だけ」や「上の歯だけ」など部分矯正の場合は、全体矯正と比べると半分の期間ですむことが多く、3か月から1年程度が目安です。

●小児矯正の場合
小児矯正には、1期治療と2期治療があります。
≪1期治療≫は乳歯が全て永久歯に生え変わるまで(6~11歳頃が対象)…治療を初めてから13才くらいまで。2期に治療が長引くこともある
≪2期治療≫は永久歯が生えそろった後(12~20歳前後が対象)…約1~2年

大人に比べると子供の矯正治療は長く感じますがですが、お子様の顎の成長期間に合わせて行う必要があります。そのため、「早く終わらせる」ということはできません。

矯正期間に保定期間がプラスされる



マウスピースでの歯列矯正の場合、前述の矯正期間にプラスして、保定期間がプラスされることを念頭においておかなければなりません。矯正後1年間は、後戻りしやすいため、この期間にリテーナーを着用します。
当院が使用しているマウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置(製品名インビザライン 完成物薬機法対象外)
の場合、透明なマウスピースタイプのリテーナーを、1日20時間以上着用します。歯並びがしっかり固定されていることを確認できれば、着用時間を徐々に減らしていき、最終的に保定を終了します。
当院では保定期間を2年間設けており、この期間に後戻りした場合には、大きな追加の費用をいただくことなく、再治療の対応をしています。

【関連記事】
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歯の矯正に長い期間が必要な理由

そもそも、なぜ歯の矯正には長い時間がかかるのでしょうか?この理由は、2つあります。

1.歯や周囲組織にダメージを与えないため

歯は、「骨代謝」という破壊と再生を毎日繰り返しており、お肌と同じように、新陳代謝を行っているのです。矯正治療はこの骨代謝のスピードに合わせて歯を動かしていくので、大体1ヶ月に1mmくらいのペースでゆっくりと歯を移動させます。
無理に強い力を与えても早く動くわけではありません。反対に、歯茎や神経、歯の根っこなどにダメージを残す可能性もあります。

2.保定期間が必要なため

保定期間とは、歯を動かした期間と同じくらい「保定装置」という取り外し式の装置を装着する期間のこと。これは歯並びの「後戻り」を防ぐためにとても重要なステップなのです。
実は歯並びには、矯正装置で歯を動かした後、元の位置に戻ろうとする性質があります。せっかく時間をかけて動かした歯並びが崩れてしまっては、意味がありません。上下の歯の噛み合わせが定着するまでは、最低でも1~3年はかかりますが、もう少しかかる場合もあります。

主な歯科矯正の種類と平均治療期間

歯科矯正には3つの種類があります。ここでは、それぞれの特徴やおおよその治療期間などについてご紹介します。

唇側からの歯科矯正(ブラケット矯正)

歯の表側(唇側)に付けるブラケット矯正は、一般的なワイヤー矯正治療のことです。

歯の表面にブラケットと呼ばれる器具を取り付け、それをワイヤーで固定し歯を動かしていきます。ほとんどの矯正治療の症例に対応できるのが特徴です。以前は金属製の器具でしたが、最近では透明・ホワイト・ゴールドなどの歯の色に馴染みやすい素材のパーツもあり、目立ちにくくなってきました。

通院頻度は1ヶ月に1回程度。治療期間は1年~3年程度です。

歯の裏側からの歯科矯正(裏側・舌側矯正)

歯の裏側にブラケットを装着して矯正していく治療方法です。矯正装置を歯の裏側に付けることで目立たないので人目を気にする必要がないため、人と接する機会が多い方や大事なイベントの前に矯正をしたいという方でも、気にせず矯正治療を行えます。

慣れるまでは発音しづらい期間がありますが、唇を傷つけにくいというメリットも。ただ。ブラケット矯正と同様に装置が外れやすい・ものが挟まるという特徴もあります。

通院頻度は月1回程度度のペース。治療期間は1〜3年です。

マウスピース型矯正装置での歯科矯正


透明で薄いプラスチックのマウスピースを使用した矯正治療です。
口腔内スキャナーによってスキャンしたお口のデータや精密検査の診断を元に、治療のスタートからゴールまで事前にシミュレーションを行います。
マウスピース型矯正は透明で目立たないだけではなく、自分で取り外し可能なため歯磨きがしやすく衛生的。また、金属アレルギーの方も安心して使用できます。1日20時間程度は装着する必要がありますが、装着時間が短いと矯正期間が長くなるので注意が必要です。
オーダーメイドで作るあなた専用の矯正装置は、1~2週間ごとにご自宅で交換することができるため、歯科医院への通院頻度も少なくなります。
通院頻度は、1ヶ月〜2ヶ月に1度ほど。治療期間は約1~3年です。


【主な矯正方法と期間、通院頻度の目安】


矯正期間の目安 通院頻度
ブラケット(表側)矯正 1~3年 月1回程度
裏側・舌側矯正 1~3年 月1回程度
マウスピース型矯正装置 1~3年 1~2ケ月に1回

お口や歯の状態によっては適しているタイプ・治療ができない場合もあります。まずは、ご自身に合った治療方法がどれなのか、矯正専門歯科で診断を受けましょう。


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矯正期間を短くするための注意点


少しでも効率的にスピーディーに矯正治療を終えるには、患者様のご協力が不可欠となります。そのため、次の3つのポイントがとても大切なのです。

計画通り通院すること

お仕事・部活・習い事・友人との予定…矯正治療よりも優先したい用事が入ると、予約が先延ばしになってしまう方も多くいらっしゃいます。できるだけご予約のキャンセルがないようにしていただくこと、また、予定が分かっている期間(受験・お仕事の繁忙期など)は避けて開始していただくことをお勧めします。

規定どおりに装置を使用すること

例えば、マウスピース型矯正装置のように取り外しができるものは、装着時間を守らないと矯正治療の効果を感じられにくくなってしまいます。また、保定期間も装置をきちんと使用することで、後戻りせずスムーズに治療を終えることができます。

歯磨きをしっかりすること

ワイヤー矯正において、歯石や歯垢などの汚れは大敵。特に虫歯ができてしまうと、矯正装置の接着が弱く外れやすくなる場合もあります。また、虫歯や歯周病の治療で矯正治療をお休みすることになると、治療が終わるまでの期間もかかってしまうのです。
ブラケットや歯に付着した歯垢は、丁寧な歯磨きでしっかりと落とすようにしましょう。

費用や治療期間の面で悩まれ、矯正治療を始めることを躊躇う方もいらっしゃると思います。「自分の場合はどれくらいの期間で、どのような矯正装置で治療を受けられるのか?」
興味がある方は、一度ご相談くださいね。

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【矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について】

① 矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間~1、2 週間で慣れてきます。
② 歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜りやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
また、歯が動くと隠れていたむし歯があることが判明することもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 矯正歯科装置などにより金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に顎関節の痛み、音が鳴る、口が開けにくいなどの症状が生じることがあります。
⑩ 治療の経過によっては当初予定していた治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形の修正や咬み合わせの微調整を行う可能性があります。
⑫ 矯正歯科装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正歯科装置を外す際にエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 動的治療が終了し装置が外れた後に現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす必要性が生じる可能性があります。
⑮ 動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや、咬み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
⑯ あごの成長発育により咬み合せや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びや咬み合せに変化が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病などにより歯並びや咬み合せが変化することがあります。
⑱ 矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。